灯台下暗し、FRBの住宅市場支援策

米連邦準備制度理事会(FRB)は今週政策金利の引き下げに踏み切る見通しであり、高水準の住宅ローン金利に悩む米国の住宅購入希望者にとって、多少の安堵がもたらされるでしょう。しかし、金利の引き下げが必ずしも住宅市場支援の最も直接的な手段とは限りません。より的を絞ったアプローチとして、FRBは自らのバランスシート上に保有するモーゲージ債(住宅ローン担保証券)の運用方針を見直す必要があるかもしれません。
FRBは利上げを開始した2022年以来、保有債券の残高を着実に減らしてきました。具体的には、モーゲージ債(MBS)の元本と利息は再投資することなく、自身のバランスシート上から徐々に落とす(ロールオフ)「量的引き締め(QT)」を実施しています。
QTは、世界金融危機とパンデミック後に金融システムを支えるためにFRBが活用した債券買い入れ政策、いわゆる「量的緩和(QE)」の逆の動きです。FRBは2009年に初めてMBSを買い入れ、以降16年間にわたってMBSの運用は積極的な政策手段になっています。
QTはMBS市場の需給バランスを変える可能性があり、住宅ローン金利に大きな影響を及ぼします。MBS市場では、FRBが受動的に保有残高を減らす中、銀行の動きが比較的鈍いため、政府系モーゲージ債(MBS)のスプレッド(利回り差)は異例の広がりを見せています。
FRBの政策金利は借り入れコストの指標として幅広い影響力がありますが、住宅ローン金利のベンチマークとしては、10年物米国債の利回りの方が重要です。これは債券市場によって決まります。一方、米国債利回りと住宅ローン金利の差であるモーゲージ債のスプレッド(図表1参照)も市場の要因によって決まり、現在は歴史的にみてもかなり広い水準が続いています。
より直接的なアプローチ
住宅ローン金利のスプレッドが大きく広がっていることは、金融政策の波及効果に問題を突き付けています。FRBの政策金利が4%に向けて低下する可能性がある中で、住宅ローン金利は依然として6%を超えています。
FRBが単純にMBSの保有残高縮小をやめた場合、どうなるでしょうか。現在、月間で約180億ドル分のモーゲージ債が償還されていますが、これを新たなモーゲージ債に再投資すれば、住宅金利のスプレッドを20〜30ベーシスポイント(bps)圧縮できる可能性があるとPIMCOは考えています。これは量的緩和(QE)の再開ではなく、単にMBSの保有残高を維持するだけです。そしてそれは、住宅ローン金利の同程度の低下を達成するために歴史的に必要とされてきた、FF金利の1%の引き下げに匹敵する費用対効果をもたらす可能性があります。
さらに積極的な選択肢として、毎月200~300億ドルの既存のMBSを売却し、その資金を新規証券に再投資する方法もあります(図表2参照)。これにより、住宅ローン金利を40~50bps引き下げる効果が期待できます。
またこの施策は、FRBのバランスシート上のデュレーション(金利リスクの指標)を大幅に短縮する可能性もあります。膨張した政府債務と財政赤字が米国の借入コストに及ぼす影響を懸念する政策当局にとって、大きなプラスとなりえるでしょう。
住宅取得環境は依然として厳しい状況
もっとも、MBSの償還の一時停止によって、米国の住宅市場のあらゆる問題が解決されるわけではありません。連邦住宅金融庁(FHFA)のデータによれば、米国の平均住宅価格はここ数ヵ月は下落しているとはいえ、いくつかの指標は、住宅が過去30年で最も手の届かない状態にあることに変わりありません(図表3参照)。住宅在庫不足が、引き続き住宅価格を下支えする可能性があります。
現在、FRBは金利引き下げを検討していますが、金融政策が米国経済にどのように波及するのか、その有効性を改めて見直す価値はあります。金利政策が政治的緊張をはらみ、インフレが依然として粘着的なサイクルにおいて、FRBは灯台下暗しとも言える、最も効果的な緩和手段に気づくかもしれません。
FRBが現在のアプローチを継続した場合、住宅ローン金利は2026年を通して高止まりし、住宅所有は富裕層だけの贅沢品になりかねません。問題は、FRB当局がこの状況を改善できるかどうかではなく、実際に改善に踏み切るかどうか、その意志があるかどうかです。
ご留意事項
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