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最近発表された自動車ローン会社と自動車部品会社の経営破綻を受け、複数の米銀が貸倒引当金の計上を発表しました。こうした企業の突然の破綻により、懸念が広がっています。
このニュース以降、パブリック市場における低格付け債券のスプレッドは、類似の満期の米国債と比較して拡大しています。また、地方銀行や中小企業への投融資を行うBDC(ビジネス・ディベロップ・カンパニー)の株価も圧力を受けており、信用市場では銀行ローンや証券化された消費者系信用を扱う一部のセグメントに対して高いリスクプレミアムが価格に反映され始めています。
これらの破綻や損失は特異的に見えますが、経済全体の成長の基本的な要素が弱まると、このような問題が表面化する傾向があります。現在見られるように、苦しんでいる企業や家計は、根本的な問題を隠しきれなくなっています。米国の経済および政策の背景には、プラス成長ではあるものの鈍化している経済、関税関連コストの上昇、劇的な移民政策の変更、依然として高水準な金利などがあり、経済の一部が試練にさらされており、その影響が徐々に明らかになりつつあります。
最終的には、米国経済はこれらの逆風に耐えられると考えています。特に、「包括的経済支援法案(One Big Beautiful Bill Act)」による所得税の減税と控除が家計や企業を下支えし始めれば、より経済は強固になるでしょう。米国経済全体では、家計および企業のGDP比および資産比の債務比率は、パンデミック前よりも改善していると米連邦準備制度(FRB)のデータが示しています。
しかし、力強い集計指標の裏には、よりリスクの高い貸付への微妙なシフトが隠れており、リスクをもたらしています。パンデミック後の信用格付けの「インフレーション」や非公開融資(プライベート・クレジット)、通常は資金調達が困難な借り手が資金を確保することができました。さらに、最近の政策変更に伴う経済的調整により、ビジネスモデルは試練にさらされています。国際貿易に依存している企業や、移民ブームによって恩恵を受けた企業は特に脆弱です。また、株式市場の上昇からの利益を享受できていない低所得世帯や、影響を受けたセクターに就労所得を依存している世帯も課題に直面する可能性があります。
最近の信用市場および株式市場の一部での価格再調整にもかかわらず、より広範な市場では、こうしたリスクは比較的楽観的にとらえられているようです。
背景:パンデミック後の強固な経済基盤がリスクの高い融資を支えた
市場はどのようにしてこの状況に至ったのでしょうか?パンデミック後の数年間、米国経済は非常に好調でした。パンデミック関連の政府による家計や企業への大規模な支援により、民間部門のバランスシートが強化されました。また、多くの住宅ローンが長期固定金利であったため、金利上昇の家計への影響が緩やかとなり、移民の急増が経済の供給面と需要面の両方を押し上げました。これらすべての傾向が、他の先進国市場と比較して米国の実質GDPの拡大に寄与しました。
米国の「例外主義」は、リスクの高い中小企業向けの非公開融資(プライベート・クレジット)の拡大にもつながった可能性があります。貸し手は高金利環境に対応するため、現物支払い型(PIK)利息など、柔軟な条件を提示し、資金供給を行いました。公開市場や銀行からの直接融資では資金調達が困難だった企業も、こうした非公開市場を通じて資金を確保しました。一方、銀行は高コストな企業向け直接融資の引受を避け、BDCなどの金融仲介機関への融資を増やす動きが広がりました。
その結果、信用は銀行や公開市場から非公開融資へとシフトし、金融引き締め政策の実体経済への影響が緩和されました。米連邦準備制度の金融勘定によると、非金融企業の信用残高はGDPの142%で、パンデミック前より7ポイント低くなっています。一方、プライベート・クレジットは、企業債務残高のうち推定2.7兆ドルの部分であり、パンデミック前と比較してGDP比で約1パーセントポイントの上昇です。過去10年間で、GDP比での企業債務の増加の半分以上がプライベート・クレジットになっています。
こうした動きは消費者向け融資にも見られ、米国の家計もパンデミック後の経済成長の恩恵を受けました。パンデミック関連の財政支援や学生ローンの猶予に加え、多くの家計では賃金の上昇(特に転職した場合)が見られ、住宅価格の急上昇により、株式投資をしていない家計でも資産が増加しました。
これらの要因により、米国消費者の信用スコアは機械的に改善、あるいは「インフレ」し、パンデミック直後には平均で10~15ポイント上昇しました(Equifaxによる)。以前は信用格付けが低かった借り手ほど、大きな改善が見られました。このような信用スコアのインフレにより、家計の債務が対GDP比で低水準にとどまっていたにもかかわらず、リスクの高い融資へのシフトが進みました。その結果、消費者向けローンの延滞率が上昇しており、特に信用スコア改善のピークである2021~2022年に発行されたローンで、その傾向が顕著に現れています。
政策変更が脆弱性を生む
この1年で、パンデミック後に見られた米国経済の例外的な強さは後退しつつあります。実質GDP成長率は、従来の2.5%〜3%から1.5%〜2%へと減速しており(米国経済分析局およびPIMCO推計)、貿易および移民政策の大幅な変更が、多くの企業のビジネスモデルに影響を及ぼしています。企業は、関税や税制、移民政策が恒久的なものになるとの見方を強めており、対応策として戦略の見直しを進めていますが、その成果には企業ごとに差が出ています。
最近相次いだ企業の経営破綻とそのタイミングは、変化しつつあるマクロ環境を反映したものといえますが、一部では、担保資産の会計処理や誓約の不一致が事態を悪化させたとも言われています。破綻した企業の一つは、信用履歴が短い、あるいは信用履歴がない借り手や、今年の米国の政策変更の影響を受けた可能性のある移民を顧客とするサブプライム自動車ローンに注力していました。また、自動車部品メーカーの破綻については、「地政学的リスク」や「新たに課された関税による逆風」が要因として挙げられています。
同時に、第3四半期の決算発表では、複数の銀行がこれら2件の企業破綻に関連する損失を計上しました。あわせて、商業用不動産や商業・産業(C&I)ローンにおいて担保の欠如や誤った誓約といった小規模な問題も明らかになりました。最近では、BDC株も売りが優勢となっており、投資家の間では依然として高水準にあるPIK利息支払いの仕組みや、今後の金利低下を見込んだ中で、基礎となるローンから得られる利息収入に対する懸念が広がっている可能性があります。
さらに、バンクローンの流通市場では、価格のばらつきが目立ちはじめています。特に自動車および化学セクターでは、困窮または割引価格で取引されるローンが増加傾向にあります。化学セクターは世界の産業生産サイクルや国際貿易に非常に影響を受けやすく、IntexおよびMarkitのデータによると、同セクターのローンの約20%が1ドルあたり80〜90セントの水準で取引されています。これは信用リスクの高まりを示唆していますが、現時点で必ずしも債務不履行に陥っているわけではありません。
この1年で、米国の消費者を取り巻く経済環境にも変化が見られました。米国の家計全体のバランスシートは依然として非常に健全に見える一方で、世帯間の格差は拡大傾向にあります。労働市場は鈍化し、実質労働所得の伸びは前年比で約1%にとどまり、純雇用の増加も停滞しています(米国商務省のデータによる)。
こうした動きは、インフレ率が依然として高止まりするなかで、低所得層の職種における名目賃金の伸びがより大きく減速していることとも重なります。また、住宅価格の急騰によって恩恵を受けていた住宅所有者(米国国勢調査局によると、米国人の66%が自宅を所有)にとっても、価格上昇の勢いが徐々に落ち着き始めています。株式市場の上昇は高所得世帯の資産を押し上げていますが、退職口座以外で株式投資をしている米国人は比較的少なく(連邦準備制度のデータによると21%)、高所得世帯の消費が最近加速していることを除けば、米国の個人消費は力強さを欠いているようです。
この結果、米国では中小企業や低所得世帯、住宅を所有していない層に対する経済的なストレスが生じているようです。S&P500をはじめとする米国の株価指数が、4月の関税発表以降劇的に反発しているにもかかわらず、これらの層ではローンの延滞や債務不履行がより顕著に増加しており、今後さらにストレスが高まる可能性があります。
まとめ
最近の企業の破綻事例や信用・株式市場の一部での価格変動は、米国経済における勝者と敗者の格差が広がっていることを浮き彫りにしています。企業および家計の債務残高は、GDP比でパンデミック前よりも低下しているものの、融資の構造には変化が生じています。銀行からノンバンクやプライベート市場への資金シフトが進み、より審査基準が緩い貸し出しが増加しています。こうした動きが、政策変更に伴うマクロ経済の調整局面において新たな脆弱性を生み出しています。
最終的には、来年にかけて一部の税制優遇措置が下支えとなり、米国経済は持ち直すと予想していますが、マクロ経済の変化はすべての人にとって容易なものではないでしょう。経済の一部には依然として脆弱な部分が存在するため、米国経済の見通しにはなお不透明感が付きまといます。
市場全体の価格動向を見る限り、こうしたリスクに対する警戒感は限定的にとどまっているようです。S&P500は年初来で15%上昇し、国債に対する信用スプレッドも最近の一部再評価にもかかわらず、依然としてタイトな水準にあります。金融政策の方向性を反映する短期金利にも、米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的な利下げに踏み切るとの観測はほとんど織り込まれていません。現時点では、利下げは段階的に進むと予想していますが、これらの経済調整がどれほど円滑に進むかは依然として不透明です。
この複雑な状況の中でも、投資家にとっては多くの投資機会が存在します。例えば、適切に審査された高格付けの消費者ローンやその他の担保付き融資に裏付けられた選択的な投資は有効だと考えます。米国および海外の高格付け債券の利回り水準は依然として高く、投資家は安全性の高いポートフォリオを構築しながら魅力的なリターンを目指すことが可能でしょう。利回りが高水準にあるということは、市場金利が下がらなくても一定の収益が見込めることを意味するほか、マクロ経済リスクが顕在化した場合には、債券価格の上昇がリスク資産の下落に対する有効なヘッジとなる可能性があります。さまざまな市場環境を想定しても、債券は投資家にとって引き続き有力な選択肢となるでしょう。