米連邦準備制度理事会(FRB)は現地時間10月29日に、市場の予想通り0.25%の利下げを発表し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを3.75%〜4.00%としました。市場はこの利下げを織り込んでおり、米政府閉鎖によるデータ不足の中でのFRBの対応は、声明文の変更も含め概ね順調に進みました。
より注目されたのはパウエル議長の記者会見で、12月を含む今後の会合での利下げは「確定事項ではない」と強調しました。9月時点のFRB予測では、参加者の大多数(全員ではない)が2025年中に合計75ベーシスポイント(bp)の利下げを支持していました。この予測を大きく変えるような新たなデータがほとんどない中で、なぜ大多数の見解に変化が生じるのかは明らかではありません。それでも、パウエル議長の12月会合に関する明確な発言は、市場の織り込みに対する牽制と解釈できます。10月会合直前には、フェデラルファンド(FF)先物市場で12月の利下げ確率が90%以上と見込まれていました。パウエル議長の発言は効果を発揮し、本稿執筆時点では12月利下げの市場織り込み確率は約70%に低下しました。12月の利下げは依然としてPIMCOの基本シナリオですが、確実性は低下しています。
FRBはまた、準備金の減少と短期金融市場金利の上昇を受けて、量的引締め(QT)プログラムを12月1日で終了すると発表しました。これは、銀行システムの準備金がもはや潤沢ではなく、FRBが証券ポートフォリオと準備金の規模を引き続き縮小すれば、準備金が不足するリスクがあることを示しています。証券ポートフォリオの維持を目的に、FRBは保有する米国債を満期償還ではなく、再投資する方針に転じます。また、住宅ローン担保証券(MBS)の償還資金も、短期国債に再投資される予定です。
データ不足の中での慎重な利下げ姿勢
FRBは声明文の変更を最小限にとどめ、新たな労働市場データがない中での慎重な姿勢を反映しました。記者会見では、パウエル議長は、追加利下げは労働市場の下振れリスクが実際に顕在化するかどうかにかかっていると明言しました。ただし、政府閉鎖の影響で公式統計の発表が遅れたり減少したりしているため、その判断は難しくなると考えられます。パウエル議長は、州レベルの失業保険申請件数や民間の求人件数が9月以降比較的安定していることを挙げ、労働市場は一部で懸念されていたほど悪化していない可能性があると示唆しました。これらの発言を受けて、債券利回りは若干上昇しました。
PIMCOでは、9月の米国インフレ指標が比較的弱かったものの、タイミングは遅れましたが最終的に10月24日に発表され、予想されていた利下げの根拠を強めたと考えています。消費者物価指数(CPI)は、関税の影響のばらつきを除けば、米国のサービス分野のインフレがFRBの目標に向かって収束しつつあることを示すさらなる証拠となりました。コアCPI(消費者物価指数)は前年比3%で推移しており、関税による推定30bpsの影響を除いた実質的なコアCPIは2.7%で、FRBの目標範囲内に収まっています。
さらに、代替的な指標では、米国の労働市場は活動水準が低いながらも安定していることが示唆されているものの、最近は、複数の業界で企業による人員削減の発表が相次いでおり、下振れリスクが以前として残っていると主張しています。
リスクのバランスを考慮すると、政策を中立に近づけることは依然として合理的だと考えられます。9月のFRBの最新予測によると、中立金利が現在のFF金利の中央値(3.875%)以上と予測した参加者は1人だけでした。10月の利下げに反対したシュミッド地区連銀総裁の姿勢を踏まえると、彼がその参加者であった可能性が高いでしょう。他のすべての参加者にとっては、中立的な政策水準に達するには、少なくとももう一度の利下げが必要です。
これらを踏まえ、PIMCOの基本シナリオは12月の利下げ継続です。ただし、パウエル議長の発言を受けて、市場と同様にPIMCOでも利下げに対する不確実性は高まっています。
2026年の金融政策見通し
さらに先を見据えると、労働市場のさらなる悪化がなければ、2026年にはFRBの利下げペースが減速する可能性があります。再び長期の利下げ停止期間が訪れる可能性もあります。政策担当者の間では、長期的な中立金利の見通しについて意見が分かれており、それはインフレ、雇用、そして中立金利そのものに対する不確実性を反映しています。政府の再開後に公式統計の発表が再開されれば、労働市場の低迷、インフレの継続的な改善、そして成長の鈍化を示すさらなる証拠が示され、金融政策が依然として引き締め的であり、中立金利の水準に戻すためにはさらなる利下げが必要であるという見方が裏付けられることになるでしょう。
しかし、関税の影響が継続していることや、今後予想される財政刺激策により、FRBが中立金利を特定するのは一層難しくなるでしょう。その結果、FRBが今後の経済指標に応じて、会合ごとに判断を下す方針へと戻る可能性が高まっています。
FRBのバランスシート戦略
短期金融市場金利が準備預金金利(IORB)に比べて高止まりしている状況が、FRBによる量的引き締め(QT)終了の判断を後押しした可能性があります。FRBのバランスシートは、12月1日以降、実質的に凍結される予定です。FRBはまた、バランスシートの加重平均残存期間(WAM)を短縮するための第一歩として、住宅ローン担保証券(MBS)の償還分を短期国債に再投資する方針を示しました。ただし、安定した状態を維持するために、いつ、どれだけバランスシートを拡大するか、またWAMをさらに短縮し国債残高に近づけるための方法については、今後政策担当者が判断する必要があります。
主な結論
パウエル議長の「12月利下げは確定事項ではない」という発言は、FRBがよりデータ依存的になっていることを示しています。FRBが2026年の政策運営を見据える中で、今後労働市場のさらなる軟化が見られるかどうかが、政策の方向性を左右する重要な要因になるとPIMCOは考えています。現時点では、FRBは今後の展開に対応するための時間と選択肢を確保したと言えるでしょう。