パブリック市場の流動性の状況について声高に批判する層を中心に、プライベート資産の流通市場における取引環境を整備しようとする動きが、再び勢いを増しています。プライベート資産のポートフォリオにおいて、透明性の高いリアルタイムの評価指標が存在しないことへの懸念が高まるなか、取引流動性の向上をその処方箋として捉える向きもあります。その一方で、ダイレクト・レンディング・ポートフォリオにおける「ジャンプ・リスク(急変リスク)」の緩和に資するものとして、流通市場取引が提案される場合があります。ダイレクト・レンディングのポジションは、信用のファンダメンタルズが悪化して価格の見直しが避けられなくなるまでは、額面価格で評価されることが一般的です。
この議論は、注目すべき背景のもとで展開されています。足元で、パブリック・クレジット市場では、取引流動性が世界金融危機以降で最も高い水準に達していますが、その一方で、これより流動性が劣るダイレクト・レンディングとのスプレッドは、近年大幅に縮小しています。
投資家にとっては、プライベート市場において引き受けている流動性の低さに対し、十分な対価が確保されているかという根本的な問いに行き着きます。PIMCOでは、特に企業クレジットの領域において、必ずしも十分な対価が確保されているとは言えない場合が多いと考えています。プライベート資産の流通市場取引における流動性向上という「触れ込み」は、投資家の利便性を真に改善するというよりも、パブリック市場と比較したダイレクト・レンディングの非流動性プレミアムの大幅な低下を正当化するために用いられている場合があります。
次に、より構造的な観点から、プライベート・クレジット市場で実効的な流動性の確保を図ろうとする際に直面する、主要なボトルネックをいくつか挙げてみましょう。
- ローンの譲渡性:パブリック市場とは異なり、プライベート・クレジットの契約では、多くの場合、記録上の債権者がローンを売却・譲渡する際に債務者の同意が必要とされています。
- 情報の非対称性:プライベート・クレジットでは、与信契約書、条件変更の詳細、担保資産パッケージ、標準化された財務情報資料を買い手が入手できないことも珍しくありません。 こうした情報は、パブリック市場において信頼と流動性を確立するうえで極めて重要ですが、現在のプライベート・クレジット市場では、統一性を欠いた対応にとどまっています。
- 機密性:潜在的なローンの買い手との情報共有に際しては、秘密保持契約の締結が必要なケースが多く、情報の非対称性に拍車がかかります。
- 取引インフラの不足:プライベート・クレジット市場には、取引の報告、執行、決済に関する一元化されたインフラが存在しません。こうしたインフラは、パブリック市場において強固な流動性を確立するうえで、不可欠な要素といえます。また、パブリック市場での取引や規則144Aに基づく私募証券取引が円滑に行われているのに対して、投資適格銘柄を対象とするプライベート取引やダイレクト・レンディング取引においては、現物決済が追加的な課題となることが多く、買い手・売り手双方の負担となる場合があります。
- インセンティブ:プライベート市場の参加者が一様に、流動性の向上を望んでいるわけではありません。透明性が低い状況を好む参加者もいれば、パブリック市場と連動しやすい時価評価の変動を避けたいと考える参加者もいます。
これらのボトルネックの一部が解消されたとしても、多くの資産は固有性を有し、個別の条件交渉を前提としています。このため、継続的な価格発見は困難となり、経済効率性が低下しやすくなります。そのような市場で流動性を創出しようとしても、取引が低迷するなかでビッド・アスク・スプレッドが拡大し、価格シグナルは不安定化する恐れがあります。透明性が改善されるどころか、流通市場取引が散発的に行われる結果、ノイズが生じて、ファンダメンタルズよりも流動性の需要が反映されやすくなります。
本質は非流動性プレミアムにあり
さらに、経済合理性の観点で相反する関係が存在します。プライベート資産の大きな魅力の1つとして、投資の時間軸が長い投資家が資金を固定化することにより享受する、非流動性プレミアムの存在が挙げられます。プライベート資産が流通市場で頻繁かつ安定的に取引されるようになると、非流動性プレミアムは必然的に縮小し、投資家がプライベート資産に資金を配分する主な理由の1つが失われてしまいます。
また、プライベート・クレジットの「流動性向上」をめぐる議論では、「真のプライベート資産」と20年以上前から流動性が確立されてきた「規則144Aに基づく私募証券」が混同されるケースが目立ちます。メタ(Meta)社による270億ドル規模のデータセンター開発資金の調達など、少数の大型取引に牽引された最近の報道は、規則144A市場の奥行きを示すものであり、プライベート・クレジットの流動性が構造的に改善されたわけではありません。
参考までに、規則144Aに基づく私募証券は、米ドル建ての投資適格債市場の約18%、ハイイールド債市場の約82%を占め、月間取引金額はそれぞれ2,000億ドル、1,000億ドル前後で推移しています(図表1)。したがって、投資適格かどうかにかかわらず、流動性が確立している規則144A市場と、一貫して流動性に欠ける真のプライベート・クレジット市場を区別することが、極めて重要になります。
シンジケートローンとは状況が異なる理由
最後に、かつてはプライベートであった資産クラスが比較的流動的かつ取引可能になった例として、幅広い投資家向けに組成されるシンジケートローン(BSL)市場の発展がよく取り上げられますが、この比較には重要な相違点が見落とされています。シンジケートローン市場の流動性が定着した背景には、徹底した標準化と、CLO(ローン担保証券)や近年ではETFといった特化型の金融ビークルの普及があり、これらがシンジケートローンの安定的な流通市場取引の需要を生み出しました。
プライベート・クレジットがシンジケートローンと同じ道をたどることができるのか、あるいはそれが望ましいのかは、はっきりしていません。仮に同じ道を辿るのであれば、取引執行の確実性や資金調達ソリューションの柔軟性など、借り手にとっての魅力とされる多くの特徴は、損なわれる可能性があります。
リスクとその対価の問題
継続的に時価評価されないというプライベート資産の特性を、構造的な欠陥と見なすべきではありません。むしろ、これは固有のリスク特性に起因するものであり、投資家は相応の対価を明示的に享受する必要があります。
重要な点として、このリスクは固定化されたものではありません。投資家の流動性のニーズ、制約条件、選好は、時間の経過とともに変わる可能性があります。このように動的な流動性リスクに対応する目的で、コストは伴うものの、成熟した一連のソリューションが生まれました。例として、リミテッドパートナー(LP)の持分譲渡、ジェネラルパートナー(GP)の持分取引、継続ビークル、広範なポートフォリオ全体を対象とした戦略などが挙げられます。これらは柔軟性を提供し、変化する流動性ニーズに応えるよう設計されています。
本稿はジェイソン・マンディナックが執筆しました。