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経済・市場コメント

FRBの適切な立ち位置はいつまで続く?

FRB高官は引き続き忍耐強く、米国の労働市場の軟化を示す確固たる根拠を見極めてから、利下げを検討する可能性が高いと見ています。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、大方の予想どおり、金利を据え置きました。声明と記者会見の最大のポイントは「不確実性」でした。4月2日のトランプ政権による関税政策の発表後、初めて開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で、ジェローム・パウエルFRB議長は、経済見通しの不透明さを繰り返し強調しました。

FRBは声明文の中で、こうした貿易政策の変更によって、「物価の安定」と「雇用の最大化」というFRBの二大責務の両方に対するリスクが高まったと明確に認めています。関税は経済成長を弱め、その影響は労働市場に波及しますが、物価を押し上げるとみられています。こうした傾向が今後数ヵ月間に公表されるデータでより明確になれば(直近の物価と雇用の指標は良好ですが、PIMCOでは数ヵ月のうちに明確になると予想しています)、FRBは難しい立場に立たされることになります。

FRBは労働統計に労働市場の減速を示す確実な根拠が現れる、おそらく夏の終わりか秋頃まで、利下げを見送るだろうとPIMCOはみています。ただし、そうした根拠が手に入れば、速やかに金利を引き下げて景気を下支えすると予想しています。

5月は適切な立ち位置……

パウエル議長が記者会見で示したように、FRBは適切な位置にいて、忍耐強くなれるようにみえます。4月の米国の雇用統計は労働市場が堅調であることを示唆しており、インフレ率は引き続き目標を若干上回る水準にあります。そのためFRBには、金融引き締め政策を終える決定をする前に、さらなる情報を待つ若干の余裕があります。パウエル議長はまた、高水準のインフレを踏まえ、FRBが高まる景気後退リスクに先手を打ち、予防的な利下げを実施することはないと述べています。市場は比較的静かな5月のFOMCを冷静に受けとめたようで、米国債の利回りは声明発表前に近い水準でその日の取引を終えました。

……しかし、「複雑で厳しい」見通し

直近の物価と雇用のデータには混乱の兆しはほとんど見られませんが、パウエル議長はFRB高官にとって見通しが不透明で厳しい点を強調しました。景気が比較的底堅く、インフレ率が目標水準を上回っている初期状態に、高関税の影響が加わることで、FRBは窮地に立たされます。関税は、短期的にインフレ率を高める反面、実体経済を鈍化させ、雇用を減速させる可能性があると考えられます。実際、FRBは5月の声明文では、3月の文面を修正し、こうした相反する結果のリスクが高まっていることを認めています。このためFRBは、政策決定のリスクと効果のバランスを取る必要があります。景気と雇用を支えるために金利を引き下げるのか(インフレ率上昇のリスク)、インフレを抑制し、インフレ期待を固定するため、高い金利を維持するのか(失業率上昇のリスク)。パウエル議長が今回の会合で明らかにしたように、現時点では、情勢が明確になるまで待つことが、FRBの最善の戦略であるように見えます。

FRBが利下げに踏み切るには、インフレ期待が十分に固定され、景気後退リスクが決定的に上昇しているとの確信が必要でしょう。労働市場が悪化ないし縮小していることを示す確かな根拠がデータで示されるまで、こうした確信は得られないかもしれません。景気後退リスクが高まるなかでの利下げに関する質問に対しパウエル議長は、「予防的になれる状況ではない」と言明しています。

関税は(婉曲的に物価水準調整と呼ばれる)一時的なインフレ急騰を引き起こすだけだと予想すべきでしょう。しかしFRB高官は、この規模とタイミングの両方に伴うリスクを強く意識しています。企業が関税コストの一部を消費者に転嫁すると、米国のコア・インフレ率は4%を優に超える可能性があります。パンデミック期のインフレ高騰がいまだ記憶に新しい現状では、インフレ期待の上昇が名目賃金の伸びを加速させる恐れがあります。そうなれば、FRBが政策の手綱を引き締めずにインフレ率を目標水準に引き下げることは一段と困難になります。

心配なことに、インフレ期待は再び上昇しています。各種調査によれば、家計、企業、専門家が揃ってインフレ率の上昇に備えており、企業が価格を引き上げている幅広い根拠が揃うよりもはるか前に、1年先の予想インフレ率はパンデミック期の高水準に戻っています。ミシガン大学消費者調査の5年先の予想インフレ率など、長期の予想インフレ率は4半世紀ぶりの高水準に達しています。

こうした状況から、FRBは慎重に事を進める可能性が高く、インフレ期待が固定され、労働市場が軟化しつつあることを示す明確な根拠を待ってから、次の一手を打ち出すだろうとPIMCOではみています。

関税と金融政策:歴史からの教訓

1960年から2019年まで先進国16ヵ国を対象にした世界銀行の調査によれば、中央銀行は実効関税率が1%ポイント上昇するごとに、平均で13ベーシスポイント(bps)政策金利を引き上げていました。しかしながら、中央銀行の反応には、経済環境による非対称性がみられます。インフレが高騰していた時期、特に3年平均で4%を超えていた時期には、中央銀行ははるかにタカ派的で、関税が1%ポイント上がるごとに、短期金利を40bpsも引き上げていました。一方、インフレが落ち着いていた低インフレ環境では、政策金利はほとんど動いていません。注目すべきは、どちらのシナリオでも、利下げは一般的な反応ではなかった点です。

現時点で、データは米国が前者(インフレ高騰)の状況にある可能性が高いことを示しています。2025年3月現在、総合インフレ率の3年平均は4.6%となっています。歴史が示唆するところによれば、こうした状況ではFRBは様子見する傾向にあります。市場も政策立案者も、利上げの可能性はほとんど考えていません。

結論

FRBの次回の利下げには、労働市場の軟化を示す根拠が必要になる可能性が高いことを踏まえると、労働市場が縮小し始める正確なタイミングが重要になってきます。貿易政策、移民制度の変更、連邦政府職員のレイオフ、そして全体的な不確実性は、いずれも今年さまざまな時点で労働市場に重くのしかかると予想されます。現時点でのリスクは、実体経済の悪化が夏まで現れないことだとPIMCOでは考えています。つまり、データのタイムラグを考慮すると、労働市場の減速を示す確実な根拠は、7月下旬のFOMC、あるいはもっと可能性が高いのは9月半ばの会合まで手に入らない可能性があります。

貿易摩擦が緩和され、関税が引き下げられたとしても、米国が近年の歴史にはない高い輸入関税に直面することに変わりはありません。短期的な影響は明らかです。インフレ率は上昇し、実質所得は減少し、投資は縮小します。長期的な影響はさほど明確ではありませんが、米国の産業への投資が拡大する可能性があります。時が経てばわかるでしょう。

現時点では、こうした経済的課題によりFRBは厳しい立場に立たされています。利下げを促すために必要な根拠は、今夏の後半から秋の始めまで現れないでしょう。それが現れれば、FRBはかなり迅速に利下げを実施するだろうとPIMCOでは予想しています。

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