景気後退:投資家が知っておくべきこと

要約
- 景気後退とは
- 景気後退の要因とは
- 景気後退が投資リターンに与える影響とは
- 景気後退時にパフォーマンスが堅調に推移する資産クラスとは
- 景気後退時に債券アクティブ運用を活用するには
- 将来の景気後退懸念に対して、投資家ができること
景気後退とは
景気後退局面とは、経済活動が大幅に低下する期間を指し、数ヵ月ないし数年続く可能性があります。一般に、景気後退局面の特徴として、生産性の低下、投資の減退、企業利益の減少、失業率の上昇が挙げられます脚注1。
一国の経済は、その国の総生産と総消費から成り立っており、常にビジネス・サイクル(または経済サイクル)と呼ばれる活動パターンに従っています。
考慮すべき点は以下の通りです脚注2。
- 歴史的に見ると、景気後退はごく自然な経済サイクルの一部であり、米国では3.25年ごとに発生しています。
- 1945年から2019年の間、米国では平均的な景気後退局面は約11ヵ月続きました。一方、その後の景気拡大局面は平均65ヵ月続きました。
図表1が示すように、景気サイクルは経済成長から始まり、その後成長が減速します。経済活動は最低点または谷に達した後、回復に転じ再び拡大を続けピークに達します。活動がピークから低下に転じたところから、景気後退局面が始まります。
景気後退を引き起こす要因とは脚注3
米国の景気後退の性質と要因はさまざまですが、一般的には個人消費と企業支出が減少するという特徴があります。個人消費は米国国内総生産(GDP)の68%を占めており、経済活動に大きく影響します脚注4。
景気後退には以下のような要因が挙げられます。
- 予期せぬ出来事–2020年のCOVID-19の世界的大流行や地政学的危機などで、サプライチェーンや企業活動に影響を与えました。
- オイルショック/エネルギー危機–1973年と1980年には原油価格の急騰でインフレが高進しました(図表2)。
- 景気の過熱–低失業率、インフレ率の上昇、資産評価バブルといった特徴があり、これを受けて世界中の中央銀行が短期金利を引き上げ、金融引き締め引きにつながる可能性があります。景気後退につながった資産評価バブルの例としては、2001年のドットコム・バブルや2008年の世界金融危機に発展した不動産バブルなどが挙げられます。
図表2は、1950年代から2020年までの米国の景気後退局と、インフレ率、原油価格、金利、クレジット/債務の対GDP比、(インフレ調整後の)実質企業利益率といったさまざまな経済変数(景気サイクルのピーク時に測定)の変化を示したものです。
図表のグレーの影をつけた領域は、インフレ率、原油価格、金利、クレジットの対GDP比の上昇率が最も大きかった年と、実質企業収益の伸び率の低下幅が最も大きかった年を示しています。
景気後退が投資リターンに与える影響とは
図表3は、景気後退が各資産クラスに与える影響にはばらつきがあり、一部の資産クラスのパフォーマンスが他の資産クラスを上回っていることを示しています。
景気後退局面の前半(図の右側)に見られる一般的な特徴は、景気サイクル終盤に「ピーク」に達した経済活動が低下することです。経済活動の低下は成長率、インフレ率、失業率のデータ分析によって測定されます。歴史的に景気後退局面の前半では、(米国債や投資適格債などの)コア債券のリターンはプラスであるのに対し、ハイイールド債、株式、コモディティのリターンはマイナスです。
景気後退局面の後半(図の左側)は、通常、経済活動の継続的な低下を特徴とし、歴史的に株式、ハイイールド債、コア債券が堅調に推移する一方、コモディティは下落します。その後、景気は「回復」または拡大局面に入ります(図の中央)。
景気後退時にパフォーマンスが堅調に推移する資産クラスとは
コア債券は概して景気後退時に堅調に推移する傾向があります。コア債券は通常、他の資産クラスよりもボラティリティが低く、景気サイクルのどの段階においても、また特に景気後退時にポートフォリオに組み入れることで、ポートフォリオ全体のリスクを軽減し元本保全に役立つと考えられます。
株式などのリスク資産は歴史的に、景気後退局面の後半と拡大局面でパフォーマンスが上回ります。
リターンにばらつきがあることから、分散投資、さまざまな資産に投資配分することの重要性は明確です。分散投資によって、ある資産への投資からは利益を得て、他の資産への投資からの損失を穴埋めできる可能性があります。
景気後退時に債券アクティブ運用を活用するには
債券市場は巨大で、極めて多様な市場です。社債、ハイイールド債、モーゲージ債、地方債、エマージング債などで構成されています。各セクター、資産クラスは、経済状況や市場の状況に対して異なる反応を示します。
アクティブ債券運用会社は一般にパッシブ運用会社よりも柔軟性が高く、割安な債券を購入し、アンダーパフォームする可能性のある債券を売却することが可能です。例えば、堅固なクレジット・リサーチ・チームを擁する高度なアクティブ運用会社はそのリソースを活用して、グローバルな債券市場全体で魅力的な投資機会を発掘すると同時にリスクを管理することができます。
将来の景気後退懸念に対して、投資家ができること
景気後退を懸念する投資家は、ポートフォリオへの潜在的な影響を軽減するのには以下の対策が役立つ可能性があります。
- 投資判断の際には理想的な長期成果につながらならい、市場の下落時に安値で売り、市場の上昇時に高値で買い入れるといった行動バイアスを避ける。
- ポートフォリオのボラティリティを軽減するべく、株式、コア債券、クレジット、オルタナティブなど、さまざまな資産クラスに資産配分し、分散投資を継続する。
- 定期的にリバランスし、投資ポートフォリオが確実に長期的な財務目標と整合性がとれているかを確認する。
まとまめると、景気後退に対する重要なポイントが1つあるとすれば、景気後退はあくまで活力ある経済の一部である、という点です。景気後退は、短期的に困難で不快ではありますが、忍耐強い長期投資家にとっては投資の好機になる可能性があると言えるでしょう。
用語集脚注
ベーシスポイント:1%の100分の1に相当します。
債券:投資家が政府や企業などの借り手に貸付を行ったことを示す証書。
コモディティ:商取引で利用され、他のタイプの財と取引できる基本的な財。公開市場で取引できるコモディティには、エネルギー、金属、家畜、農産物などがあります。
消費者物価指数(CPI):消費者が支払う商品・サービスの代表的なバスケットの価格変化を経時的に測定したもの。
個人消費:個人や家計が最終財およびサービスに支出した金額の合計。
クレジット/債務の対GDP比:国内総生産(GDP)に対する一国の公的債務の指標。
分散:さまざまな資産クラスに投資を分散して、ポートフォリオのボラティリティを長期的に軽減させる戦略。
ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法:2007年から2008年の金融危機に対応して立案され、上院議員のクリストファー・ドッド氏とバーニー・フランク氏にちなんで命名された法律。
株式:会社の株式の持ち分。
フェデラルファンドレート(FF金利)預金取扱機関がFRBに預け入れている資金を別の金融機関に1日貸し出す際の金利。
連邦準備制度理事会(FRB):米国の中央銀行で、より安全で、より柔軟で、より安定した金融システムを提供することを目的に、1913年に議会によって設立。FRBは雇用の最大化と物価の安定を二大責務(マンデート)としています脚注6。
世界金融危機(GCF):2008年の金融危機は、世界的に経済活動が急激に落ち込んんだことが特徴でした。その引き金となったのは、低金利、安易な信用供与、不十分な規制、質の悪いサブプライム住宅ローンによって煽られた米国の住宅市場の崩壊でした。
国内総生産(GDP):1年間に一国で生産された財とサービスの市場価値の総和。国内生産を網羅する広範な指標であり、一国の経済の健全性を測る包括的な指標として機能します。
ハイイールド債:企業が発行する債券で、投資適格債よりも高い利回りを提供できますが、リスクの高い投資と見なされています。
インフレ:一国の商品およびサービスの全体的な価格が、継続的に上昇すること。
投資適格債:投資適格級の債券で、格付け機関のムーディーズからAaaからBaa3の範囲内の格付けを、スタンダード&プアーズからAAAからBBB-の格付けを付与された債券。企業の証券は、財務上のコミットメントを果たすための確固とした能力を有している場合、投資適格とされます。
金融政策:一国の中央銀行がマネーサプライ全体を管理し、経済成長を促進するために活用する一連の手段。これらの手段には、金利水準の変更や銀行準備預金の要件などがあります。
全米経済研究所(NBER):非営利団体で米国の経済成長を追跡し、景気後退局面を事後的に宣言します。
米国債:米連邦政府が発行する債券で、すべての国債が米国政府の「完全な信頼と信用」に裏付けられているため、最も安全な投資先の1つとみなされています。
ボラティリティ:証券、デリバティブ、市場指数の価格変動の尺度。
ウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI):米国産の原油の代表的な指標。
イールドカーブ:ある時点で、信用の質は同等で償還期間が異なる債券の金利をプロットした線。
ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境下ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。S&P500指数は一般的に株式市場全体を反映すると考えられているインデックスです。この指数は、米国株式市場の大型株に重点をおいています。ブルームバーグ米国ハイイールド社債インデックスは、米ドル建て非投資適格固定利付課税社債市場を対象にしています。証券は、ムーディーズ、フィッチ、S&PのミドルレーティングがBa1/BB+/BB+以下の場合、ハイイールドに分類されます。インデックスには、エマージング債は含まれません。FREDは、Federal Reserve Economic Dataの略で、セントルイス連邦準備銀行の研究部門によって作成および保守されている経済統計データの時系列のオンラインデータベースです。インデックスに直接投資することはできません。
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