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運用戦略

プライベート・クレジット市場にアクティブ運用の波が到来:投資手法の詳細な分析

ダイレクト・レンディングの分野では成熟化が進み、相対価値に重点を置くアクティブ運用会社にとって、新たな投資機会が生まれています。プライベート・クレジット市場の運用指針も変わりつつあります。

主な結論

  • プライベート・クレジット市場は、金融史上でも極めて恵まれた、特異な環境下で急速に成長を遂げてきました。その一方で、最大のセクターである企業向けダイレクト・レンディングの分野では、競争の激化と経済見通しの不確実性の高まりを背景に、成熟化の兆しが見受けられます。
  • 企業向けダイレクト・レンディングは、シンジケート・ローンのパッシブ運用と多くの共通点がありますが、投資家にとっては手数料が割高で、流動性は低いうえ、出口戦略の選択肢は限られています。
  • 現在は、単に市場アクセスを提供するだけでなく、運用成績の最大化にフォーカスした、幅広い資産タイプを対象とする戦略的な投資に適した環境であると考えられます。
  • 取引可能なプライベート・クレジットの形態が多様化することで、パブリック・サイドの債券市場やクレジット市場において長年効果を発揮してきた運用指針を応用し、リスク調整後リターンの向上を追求するチャンスが生まれています。
  • こうした傾向は、パブリック市場とプライベート市場の相互作用が強まるなかで加速し、さまざまな形態のパブリック/プライベート・クレジット運用の規模とリソースを備えたアクティブ運用会社にとって、投資手法の選択肢が広がっています。

10年以上にわたって着実な成長を続けたプライベート・クレジット市場は、現在、成熟期に差し掛かっています。高レバレッジ企業向けの変動金利型ダイレクト・レンディングを主軸に成長したこの市場は、今では経済のほぼすべてのセクターを網羅する、大規模で多様な市場へと発展しています。

黎明期には、超低金利環境、世界金融危機後の銀行規制の強化、利回りを追求する資金の大量流入という好条件がめずらしく重なり、プライベート・クレジット市場の拡大を後押ししました。「潤沢なマネーの時代」が終焉を迎え、投資資金と貸し出しニーズのバランスが改善するなど、投資環境は変化しつつあります。

もはや、プライベート・クレジットを新しい資産クラスにアクセスして流動性プレミアムを獲得するための手段として位置付けることはできなくなっています。金利の上昇や経済の不確実性の高まりを背景に、特にクレジット市場の信用力が相対的に低い領域において、従来の景気循環的な力学が再び作用するようになっています。

その一方で、金利の上昇、規制環境の変化、不動産市場の不安定化を受けて銀行のビジネスモデルが変化し、多様な形態の企業金融やアセット・ベースド・ファイナンスの成長が加速しています。今では投資家は、リスク・プロファイルや初期条件、特性が異なる、より幅広い種類のクレジットにアクセスできるようになりました。

また、パブリック市場とプライベート市場の垣根は低くなりつつあり、投資家はより幅広い投資対象の中から相対価値の魅力を追求できるようになりました。このような新しい環境では、資産選択やポートフォリオ構築のスキルを身につけた投資家が優位に立つでしょう。パブリックの債券市場と同じように、プライベート・クレジット投資においても、ミスプライシングを見極め、構造的な非効率性に的確に対応し、市場の歪みを投資機会に転じる能力が、ますます重要になるでしょう。

金利やクレジット・スプレッドの変動が精緻に反映される市場とは異なり、比較的「粘着性の高い(実勢水準の反映が遅い)」評価価格に基づく不透明な価格決定メカニズムが採用されるプライベート市場では、そのような歪みは発生しやすくなります。これまで、多くのプライベート・クレジット投資家が経験してきたような評価価格の「なだらかな」変動を通じて、アクティブ運用会社には、さまざまなパブリックとプライベート両方のクレジット市場における資産価格や流動性の違いを、投資機会に転じる魅力的な機会が生まれています。

プライベート市場における運用手法の多くはアクセスに依存するものであり、相対価値がそれほど重視されていません。これは、パブリックの債券市場およびクレジット市場における「アクティブかパッシブか」の議論に類似しています。プライベート・クレジット市場に内在するアクティブ運用の機会は、過去数十年間に債券市場でアクティブ運用が生み出してきた超過利益に匹敵する、あるいはそれを凌駕する可能性があると考えられます。十分なリソースを備えた運用会社には、主に3つの分野で投資機会が広がっているとPIMCOでは考えています。

  1. パブリック・プライベート両市場にまたがる相対価値の発掘:クレジット特性が近い資産を比較することによる投資機会の評価
  2. セクターおよび資産の選択へのフォーカス:幅広いサブセクターにおけるリスク・リターンの精緻な評価、個別の資産や案件構造の分析
  3. 構造的なアルファの活用: 市場の非効率性を活用することによる付加価値の発掘

以下では、これら3つのアプローチを詳細に検討します。

クレジット市場の相対価値比較-パブリック vs. プライベート

かつては明確だったパブリック(公募)とプライベート(私募)クレジット市場の境界は次第に曖昧になり、それに応じて投資環境も変化しています。両市場の相互作用の高まりは、さまざまな形で顕在化しています。

  • CLO(ローン担保証券)は、企業向けのシンジケート型レバレッジド・ローンを裏付けとするストラクチャード・クレジット商品ですが、プライベート・クレジット市場においては、資金調達の手段として一層重要性を増しています。JPモルガンのデータによると、プライベート・クレジットCLOがCLO市場全体の残高に占める割合は約12%、2024年の新規発行額に占める割合は約18%に達しています。
  • 住宅ローン、航空機ファイナンス、音楽著作権などのその他のプライベート資産については、証券化の技術を活用し、プライベート市場でオリジネートされた資産をプール化した上で、有価証券としてパブリック市場で販売する手法が広がっています。
  • 銀行が保有リスクを削減する手法として、シンセティック・リスク・トランスファー(SRT)の普及が進んでいます。SRTでは、パブリック/プライベート両サイドのクレジット・エクスポージャーのパフォーマンスを参照する、プライベートなカスタムメイド取引のスキームが用いられます。

収れんが進んでいるのは、資産の種類だけではありません。パブリック市場とプライベート市場では、これまでもファンダメンタルズの動きに共通性が見られましたが、最近では需給要因(特にファンドの資金フローを背景とする市場ダイナミクス)の影響によって、両市場の連動性が高まっています。パブリック市場において、ファンドの資金フローが需給動向を左右するのと同じように、プライベート市場(特に企業向けダイレクト・レンディング)における資本形成を支える手段として、ビジネス・デベロップメント・カンパニー(BDC)などの投資ビークルの重要性が増しています。

このような需給要因が強まる傾向は、加速しつつあります。合併と買収(M&A)やレバレッジド・バイアウト(LBO)の動きは比較的低調で、過剰な資本(図表1を参照)が限られた(特に中堅企業や中堅上位企業向けの)ダイレクト・レンディング案件を奪い合う状況となっています。不動産市場においても、2022年の金利ショック以前に非上場不動産投資信託(REIT)が台頭した時期に、同じような動きが確認されています。

図表 1:近年大きな成長を遂げる非上場BDC

図表1 この積み上げ棒グラフは、2002年第4四半期から2024年第4四半期にかけての、ビジネス・デベロップメント・カンパニー(BDC)の運用資産残高(AUM)の伸びを示しています。近年、全般に成長が加速している様子がうかがえます。このグラフは、「上場BDC(青色)」、「非上場/プライベートBDC(緑色)」、「永久型BDC(紫色)」の3つから構成されています。2002年には100億ドル未満にとどまっていた運用資産残高は、2024年には約4,500億ドルに増加しています。グラフの起点において唯一の市場だった「上場BDC」は、着実な成長を遂げています。「非上場/プライベートBDC」は2011年頃に登場し、その後着実に成長しています。「永久型BDC」は2020年に登場し、その後急速に成長しています。
出所:PIMCO、モルガン・スタンレー・リサーチ、2024年12月31日現在。上場BDCは公開取引所に上場されるため、投資家は市場価格で持ち分を売買することが可能です。非上場/プライベートBDC(永久型BDCを除く)は上場されておらず、無期限の運営を前提とするものを除き、期限付きで組成されることが一般的です。永久型BDCは非上場の仕組みであり、確定した満期日を設定せずに運営されています。

その後、流動性に一定の制限のある不動産戦略や、エバーグリーン型のコア資産特化型不動産投資ビークルに対する解約請求の圧力は、一段と強まっています。現時点では広範な投げ売りの動きには発展していないものの、移行の流れのなかで不動産市場の需給環境に影響が及ぶようになり、資金の流出が継続すれば、時間の経過とともに売却圧力が強まる可能性があります。

パブリック市場のボラティリティが上昇するなかで、プライベート・クレジットの安定性を評価する声が際立ちますが、多くの場合、その安定性にはトレードオフが伴います。パブリック市場と比べて貸し出し条件が不利になるケースもあり、また、たびたび強調される「取引実行の確実性」は、投資家よりも借り手にとって有利に働く傾向があります。

また、プライベート・クレジットの流通市場の取引も広がりつつあります(図表2参照)。当初、流通市場におけるファンドの売却やリミテッド・パートナーの持ち分(プライベート・クレジット・ファンドの所有権)の譲渡に特化したニッチな分野であったものが、ファンド・ファイナンス、リスク移転ツール、ポートフォリオ/単一資産の売却を含む幅広い市場へと発展しています。このようなトレンドは継続し、新たな相対価値の投資機会につながると予想しています。

図表2:流通市場への展開が続くプライベート・キャピタル

図表2 この積み上げエリア・グラフは、2018年1月から2024年10月にかけての、非預金取扱金融機関向けの融資残高を、ファンド・ファイナンス市場の代替指標として示しています。融資残高は、外国銀行(紫色)、米国の小規模銀行(緑色)、米国の大規模銀行(青色)の3つから構成されています。グラフの対象期間中に、残高の大半を占める大規模銀行が着実に増加したことで、融資残高は約4,500億ドルから1兆ドル超へと安定的に増加し、2倍以上となりました。グラフの対象期間中に、小規模銀行と外国銀行のシェアはおおむね同水準で推移し、両者ともやや上向きのトレンドをたどっています。
出所:米連邦準備制度理事会(FRB)、PIMCO、ゴールドマン・サックス・インベストメント・リサーチ、2024年10月現在。

パブリック・クレジットとプライベート・クレジットの両市場を分断するのではなく、融合させることによって、投資家の選択肢は広がります。本質的な課題は、市場を1つに絞り込むことではなく、多様化するストラクチャー、セクター、需給要因に柔軟に対応し、リスクとリターンの最適なバランスを見極めることです。

セクターおよび資産の選択

このように市場間の相互作用が強まるなかでも、投資戦略のタイプや投資家の選好を考える上で、プライベート・クレジットは固有の位置付けを確立しています。

パブリックの債券市場に注目すると、一般に最大規模のファンド・カテゴリーでは、単一のセクターに限定せず、複数のセクターを投資対象とする柔軟なアプローチが採用されています。信用力の高い資産に投資するコア債券戦略では、投資適格の社債やモーゲージ債に的を絞ったアプローチよりも、柔軟なアプローチの方が一般的です。同じように、高利回りの分野においても、ハイイールド債やバンクローンなど特定の分野に重点を置く戦略よりも、マルチセクター戦略の方が多数を占めています。

対照的に、プライベート・クレジット・ファンドの領域では、単一セクター型の戦略が総じて選好されています(図表3参照)。

図表3:限定的な投資戦略に集中するプライベート・キャピタルの資金調達

図表3 この図表は、「コア/コアプラス債券」、「ハイイールド・クレジット」、「プライベート・クレジット」という3つのカテゴリーについて、2024年後半時点のファンドの種類を規模別に比較した、3つの縦棒の棒グラフを示しています。それぞれ、3つのサブカテゴリーから構成されています。「コア/コアプラス債券」では、マルチセクター戦略(約2.4兆ドル)が、中期国債戦略(2,810億ドル)と社債戦略(2,230億ドル)を凌駕しています。同じように、「ハイイールド・クレジット」では、マルチセクター戦略(5,090億ドル)が、ハイイールド債戦略(3,750億ドル)とバンクローン戦略(1,110億ドル)を上回っています。対照的に、「プライベート・クレジット」では、対象範囲の狭い戦略が大部分を占めています。なかでもダイレクト・レンディング(7,900億ドル)が、突出して大きいサブカテゴリーを形成しています
出所:PIMCO、プレキン、With Intelligence。左の図表と中央の図表のデータは、2024年12月31日現在のものです。右の図表のデータは、2024年9月30日現在のものです。アセット・ベースドの数字は、次項のスペシャリティ・ファイナンス戦略を採用するアクティブ・ファンドの総額を示しています。アセット・ベースド・レンディング、訴訟ファイナンス、NAVファイナンス、キャピタル・リリーフ、著作権、輸送ファイナンス。コア・コアプラス債券は、比較的質の高いクレジットを投資対象とし、ダウンサイド・リスクの緩和と安定的なインカムを重視する戦略です。ハイイールド・クレジットは、リスクの増加を許容しつつ、リターンの高さを追求する戦略です。プライベート・クレジットは、非上場のデット型商品にフォーカスする戦略です。3つの異なる市場の絶対的な規模を比較するのではなく、各市場の相対的な規模感を示すことを目的としているため、スケールに合わせて調整していません。

柔軟性の高いアクティブ運用型のファンドは、厳格な運用方針に縛られることなく、さまざまなセクターを横断的に見渡し、相対価値に基づいて投資できる強みを持っています。プライベート市場では、これまで十分に活用されてこなかったような、バリューを抽出し、分散投資やセクター配分、資産選択を通じてリスク調整後リターンを高める機会が広がりつつあります。これこそが、PIMCOが50年以上にわたって磨き上げてきたアプローチなのです。

一般にパブリック・クレジットの投資家が、投資資金のほぼすべてをバンクローン市場に偏らせないのと同様に、プライベート・クレジットの投資家も、企業向けダイレクト・レンディングのみに依存するべきではありません。むしろ、景気サイクルの変化に的確に対応するため、分散効果を活かすことが重要です。PIMCOでは、現在ほど分散効果を実現しやすい環境はかつてなかったと考えています。プライベート市場では、金利の上昇や銀行の業務縮小を背景に、企業クレジット以外の資産クラスにも、今後も拡大する可能性のある投資機会が広がっています。

パブリック市場と同様に、プライベート・クレジットの投資家も、全体的なリスクに対する対価の魅力度に応じて、特定のサブセクターに重点を置いたり、逆にウエイトを下げたりすることが可能です。その手法として、企業向け、アセット・ベースド、不動産といったセクター配分の見直しや、リスク・リターン特性が最も魅力的なサブセクターの厳選などが考えられます。その際に、債券の分野におけるオプション調整の枠組みと同様に、多くの場合、データや分析モデルを慎重に活用し、個別の違いを評価した上で、リスクの対価を総合的に把握する作業が必要になります。

初期の条件やバリュエーションは、セクターによって大きく異なる場合があります。企業向け融資の領域では、レバレッジは過去の標準よりも高い水準で推移しています。アセット・ベースド・ファイナンスの方が、バリュエーションや案件のストラクチャーの面で、より魅力的に映ります。また、不動産市場は困難なサイクルから回復しつつあります。

現在、与信基準の厳格化、初期のレバレッジ水準の低さ、バリュエーションの優位性といった要因から、クオリティの高い消費者関連のプライベート・クレジットの方が、さまざまな形態の企業クレジットよりも、格段に魅力的に見えます。

構造的アルファ

プライベート・クレジットの領域では、構造的アルファの役割がますます大きくなっています。構造的アルファとは、市場で繰り返し観測される構造的な非効率性を特定するコンセプトであり、保険会社などの非経済的な(経済合理性のみに必ずしも依拠しない)主体による投資判断が、例として挙げられます。保険会社の運用指針では、多くの場合、トータルリターンよりも純投資収益が重視されます。このような非効率性に着眼して分散度の高いポートフォリオを構築することによって、投資家はバリューの歪みを投資機会に転じることが可能になります。

成熟期を迎えたプライベート・クレジット市場では、参加者層の広がりや投資ビークルの参入、リスク移転メカニズムの活用、規制当局による監督の強化など、より制度的な市場構造が形成されつつあります。以下では、構造的アルファの源泉として、重要性が高まりつつある要素を4つご紹介します。

  1. 特定期間選好仮説: これは主に債券市場を対象とし、債券投資家の期間構造に基づく選好に着目した理論です。例えば、短期債志向の投資家のなかには、長期年限の投資との相対価値をあまり重視しない層が存在します。プライベート市場における類似の例としては、金利変動に対する時価評価の感応度を抑制する手段として、多くの投資家が引き続き変動金利型クレジットにフォーカスしている状況が挙げられます。その結果、年限の長い固定金利型のプライベート・クレジットの投資機会は、それほど過密になっていません。その一方で、航空機ファイナンスは多くのプライベート・クレジット投資家が選好する領域から外れているため、リスク調整後リターンがより魅力的となる場合があります。

  2. 非経済的な市場参加者: プライベート市場では、いくつかの視点から、経済合理性のみに必ずしも依拠しない買い手による取引が増えていることが確認されています。
    • エバーグリーン型ファンドのフロー: パブリック市場では、パッシブ型ファンドの資金動向が構造的アルファに影響することがあります。一方、プライベート市場では、資金の流入によって、BDCやREITといった比較的狭い範囲のプライベート戦略が急速に拡大しています。これらの投資ビークルはベータに重点を置く傾向があり、迅速な資金稼働や定期的な解約請求(各月または各四半期)への対応が求められることから、市場に歪みが生じる可能性があります。最近では、BDCの普及を背景に、ダイレクト・レンディングのスプレッド縮小や、エバーグリーン型不動産投資ビークルにおける解約請求の増加といった現象が観察されています。その結果、PIMCOは、類似の無担保企業クレジットと比較して魅力的なスプレッドで、著名企業をテナントとする長期リース契約付きのトリプル・ネット・リース不動産資産を取得することに成功しました。
    • 保険会社の参入: この10年間に、プライベート・クレジットに対する保険会社の需要が急増しています。その背景には、高格付けの資産や規制上の優遇措置を受ける資産への投資を通じて、資本効率の向上を図る動きが存在すると考えられます。保険会社の参入によって、投資適格のプライベート・クレジットや固定金利型の商業用不動産ローンなど、資本効率の高い資産のスプレッドは大幅に縮小し、流動性の高い比較対象の資産と比べると、価格や条件面での魅力が相対的に低下するケースが増えています。PIMCOでは、複雑なアセット・ベースド・ファイナンスのポートフォリオに好条件のシニア・ファイナンスを確保することによって、投資適格のプライベート・クレジットへの旺盛な需要を投資機会へと転換しています。
    • 銀行によるリスク削減の動き: 銀行は通常、新規融資につながるような顧客とのリレーション構築を目指しますが、規制やリスク管理の観点から、資産売却のインセンティブが生じることも少なくありません。その結果、ポートフォリオの売却、フォワード・フロー契約(継続的売却契約)の締結、リスクの移転など、さまざまな対応を図っています。これらに共通するテーマは、バリューの最大化以外の目的でリスクを削減するインセンティブを有する市場参加者の存在です。PIMCOでは、銀行の住宅ローン/消費者クレジットのポートフォリオへの投資や、キャピタル・パートナーを模索するプラットフォームとのフロー契約の締結を通じて、このトレンドから恩恵を享受しいます。

  3. 格付け: プライベート・クレジット市場では、市場規模の拡大に伴い、投資適格級の資産が増加しています。このトレンドには、2つの重要な意味があります。
    • 投資適格市場における銘柄の選択:投資適格級の格付けが1つ付与されているものの、投資適格クレジットの投資家が求める特性を備えていないプライベート・クレジットの投資商品を、たびたび目にします。支払いの優先順位、ストラクチャーの複雑性、借り手の信用力などが問題となりえます。その結果、類似の投資機会と比べてリターンが見劣りすることも少なくありません。
    • プライベート・クレジット案件におけるファイナンスの機会: 投資適格格付けを有するプライベート・クレジットに対する旺盛な需要を背景に、アクティブ運用会社は、格付けを最適化する形でストラクチャリングすることによって付加価値を創出し、魅力的なファイナンスを確保できるようになっています。その際には、ストラクチャード・クレジット、格付け手法、キャピタル・ストラクチャー(資本構成)上の相対価値分析に関する、高度な専門知識が必要になります。投資適格格付けに内在する安全性を求める保険会社(図表4参照)などの投資家の間で、プライベート・クレジットに対する需要が高まるなかで、このトレンドは今後も継続する見通しです。

図表4:格付けに制約を有する投資家のプライベート・クレジット投資需要は増加傾向

図表4 この棒グラフは、保険会社の運用資産残高(AUM)が、オルタナティブ資産全体で、2010年から2024年にかけて一貫して増加傾向にあることを示しています。グラフの対象期間中に、運用資産残高は2010年の1.04兆ドルから2024年の2.76兆ドルへと、2倍以上に増加しています。対象期間の前半には、増加ペースは着実ながら緩やかだったものの、2019年頃から加速しています。
出所:PIMCO、ブルームバーグ、プレキン、SNLの米国法定データ、2024年12月31日現在。オルタナティブには、プライベート資産をベースとする有価証券、CLO、プライベート企業、プライベート・ハイイールド債、住宅ローン、不動産、オルタナティブ資産が含まれます。
  1. 行動ファイナンス:プライベート・クレジットに寄せられる期待の多くは、過去15年間の比較的前例のない投資環境における堅調なパフォーマンスに由来しています。しかしながら、現在の高金利環境においては、信用力が低く、変動金利型で、構造的にレバレッジのかかったクレジットに大きく依存するような、後ろ向きの戦略に固執することは、安全とは言えません。これからは、固定金利型の資産と変動金利型の資産のバランス、投資年限の長期化への前向きな姿勢、クレジットのセクター間の相対価値に対するフォーカスが運用成果を上げるためには不可欠です。つまり、従来のアプローチでは、これからの市場には通用しないということです。

結論

プライベート・クレジット市場が成熟するにつれ、もはや市場へのアクセス方法や、代替融資手法の斬新性によって語られるものではなくなっています。現在では、多様な借り手層や案件のストラクチャーへのエクスポージャーを提供する、複合的な投資対象となっています。パブリック市場とプライベート市場の境界が曖昧になり、資産タイプの多様化が進むなかで、需給要因や構造的な要因の影響が強まり、チャンスに満ちた環境が形成されています。

この新しい時代で成功するカギは、迅速に動くことではなく選別的になることでしょう。投資家には、相対価値を評価し、さまざまなビークルやストラクチャーの違いを理解し、市場動向の変化に機動的に対応する能力が求められます。リターン追求のためのツールはこれまで以上に多様化していますが、それに伴い、精緻な分析やアクティブな運用が一層求められています。

結局のところ、プライベート・クレジット市場の成熟は、柔軟性、規律の高さ、バリューを見極める鋭い視点を兼ね備えた投資家に恩恵をもたらすと考えられます。見かけの利回りにとらわれず、より精緻で戦略的なアプローチを採用する投資家こそが、市場からのリターンを的確に捉える好位置にいると考えられます。

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