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経済・市場コメント

債券市場の見通し:バリュエーションは、株式よりリスクが少ないながら株式並みのリターンをもたらす可能性を示唆

質の高い債券資産は、景気後退が近づくにつれて、分散投資のメリットとともに、10数年来で最も高いリターンをもたらす可能性があります。
要約
  • 債券市場は、株式市場に比べてボラティリティが低く、下落に対する防御力が強い特徴を備えながら、株式並みのリターンをもたらす可能性を秘めており、強靭性(レジリエンス)のあるポートフォリオを構築する上で役立つはずです。
  • 今後数四半期に、政策引き締めと銀行の混乱の直接的な影響が出始めると予想しています。ただ、消費者債務と企業債務のかなりの割合が低金利で固定されているため、影響が実感されるまでに過去のサイクルよりも時間がかかるでしょう。
  • 今後数年は、下落リスクがより高い経済サイクルが顕著になると予想しています。ソブリン債が高水準に達していることやインフレ再燃への懸念から、財政・金融当局共に、刺激策を発動する意欲が低下し余地も狭まっていることがその理由です。

景気後退が視野に入る中、債券市場における大規模な価格見直しは、質の高い債券の投資家に強靭性(レジリエンス)と株式並みのリターンをもたらす可能性があります。本稿では、グローバル経済アドバイザーのリチャード・クラリダとグループ最高投資責任者(グループCIO)のダン・アイバシンが、プロダクト戦略のグローバル統括責任者のキンバリー・スタッフォードとともに、PIMCOの長期市場展望を改めて振り返ります。PIMCOがなぜ現在、忍耐強く質の高い資産に重点を置きながら、今後数年間にクレジット市場の景気変動に敏感な分野や格付けの低い分野に軸足を移す準備をしているのか、その理由について論じています。

スタフォード:PIMCOが長期展望の対象とする今後3年から5年に、経済や市場に影響を与えると予想される主要な要因について聞かせてください。

クラリダ:一生に一度しかないであろうパンデミック、津波のような矢継ぎ早の刺激策、ロシアのウクライナ侵攻、米中摩擦の激化など、いくつもの劇的な緊張が金融市場を混乱させ、世界中でインフレを引き起こしました。PIMCOでは、その余震とも言うべき「アフターショック」経済を予想しています。中央銀行が過去40年で最速ペースの利上げで対応した結果、米国市場最大規模の3行の銀行破綻と、欧州でのクレディ・スイスの破綻が起きました。総合的に考えると、これらの出来事は、世界の金融システムに潜む脆弱性を明らかにしたと言えるかもしれません。

スタフォード:世界中の高水準の債務、信用収縮、景気後退の可能性を踏まえると、財政政策と金融政策にどのような影響があるのでしょうか。

クラリダ:パンデミック前が比較的平穏だったのに対し、今後5年は経済のボラティリティが上昇すると考えられます。多くの国で債務の対GDP比率が急上昇しており、政府が財政刺激策を実施する余地は狭まっています。一方、中央銀行は、量的緩和(QE)が現在のインフレを誘発したとの認識から、将来の景気後退時に支援策を打ち出しにくくなる可能性があります。景気後退を緩和するための大規模な刺激策がなければ、景気サイクルはより顕著なものになり、リスクは下方に偏ると考えています。

アイバシン:過去5四半期にわたって、大幅な信用収縮が見られました。一般に、経済は引き締めに遅れて対応します。ただ、非常に多くの消費者債務と企業債務が低い金利で固定されているため、現サイクルでは引き締めの影響が実感されるまでに時間がかかるだろうと考えています。今後数四半期に、政策引き締めと銀行の混乱の直接的な影響が出始めると予想しています。

スタフォード:債券市場のボラティリティは高まっていますが、株式市場は景気後退を織り込んでいるようには見えません。債券市場と株式市場をどう見ていますか。また、投資家はどうすれば強靭な(レジリエンスの高い)ポートフォリオを構築できるのでしょうか。

アイバシン:債券市場の大規模な価格見直しを受けて、投資家は不安になるほどのリスクを取らずとも、12年で最高の実質利回りを確保できる可能性があります。質の高い債券は、株式に比べてボラティリティが低く、下落リスクが小さいながらも、株式並みのリターンをもたらす可能性を秘めています。これは持続的なインフレやハードランディングという重大なリスクに直面する中で、貴重な意味を持ちます。そのためPIMCOでは、質が高く景気変動に敏感でない分野に重点を置いています。一方で、他の分野ではファンダメンタルズの変化を反映して価格が調整された場合に方針転換できるよう準備しています。具体的には、今後数年で、まずパブリックな(公開)企業クレジット市場において、より景気変動に敏感な分野や格付けの低い分野の投資機会を模索し、さらに最終的にファンダメンタルズを反映し始めた段階で、プライベート(非公開)市場でも投資機会を見い出すことを想定しています。

スタフォード:クレジット市場全般の見通しを聞かせてください。

アイバシン:すべてのクレジット・サイクルに、ある種の過剰感があります。現サイクルでは、超低金利環境下で投資家が利回りを追い求める中で、心地よい状態が生まれました。それでも、歴史的にハイイールド社債市場で見られた過剰なレバレッジは、過去10年に急成長しているシニア担保ローンやプライベート・クレジット市場に移行しています。確かに、今日の伝統的なハイイールド市場や投資適格市場は、過去に比べて全体の信用の質が大幅に向上しています。こうした固定金利が主流の市場で、企業と家計は2020年から2021年の間に調達金利や住宅ローン金利を過去最低水準で固定することができ、景気減速に対する強靭性(レジリエンス)を強化してきました。PIMCOが短期的に注力している質の高い分野としては、投資適格債、消費者クレジット、証券化クレジットが挙げられます。これらの分野では、劣後、実物資産の担保、契約内容の有利な見直しなどの形で、追加のバッファーが得られる可能性があります。

スタフォード:今後5年のプライベート・クレジットの見通しを聞かせてください。

アイバシン:プライベート・クレジットは、今後数年に新規の資本を投じる先として優先する分野の1つです。ただし、短期的には課題があるとみています。プライベート・ローン市場は急速に成長しています。世界金融危機で大手商業銀行が中小企業向け融資から撤退しましたが、当時と比べてプライベート・ローン市場は約6倍の規模に拡大しています。低金利環境下で、投資家は利回りを追い求めてこの市場に資本を注ぎ込み、貸し手は心地よさを感じるようになりました。ところが現在、急激な金利の上昇と収益の逆風が、こうした変動金利ローンの借り手の多くにのしかかっています。これら企業は、規模が小さく、レバレッジ比率(負債比率)が高いのが一般的です。

それでも、この分野ではリターンの上昇と引受基準の合理化が見え始めています。ただし、こうした状況の改善はゆっくりと進むだろうと予想しています。ストレスの程度が、今後の景気後退の深さがどうなるかを決める変数になる可能性があります。今後数年間は、優良企業に流動性を直接供給する機会や、プライベート・デット・ファンドや銀行が流動性を高めるために売却を余儀なくされた際に、大幅に割引された債権を買い取る機会があるとみています。こうした機会に対処するうえで、プライベート資本の供給における大きなミスマッチは、強力なリターンをもたらす可能性があります。

スタフォード:世界的な中央銀行による政策金利の大幅な引き締めは、どのような展開となるでしょうか。

アイバシン:PIMCOでは、世界的な政策当局によるボラティリティ抑制は終ると予想しています。また地政学的な不確実性が高まる中で、近隣地域や友好国に拠点を移すニア・ショアリングやフレンド・ショアリングが増加するにつれて、世界市場のデカップリングが進み、経済サイクルの同調性が低下すると予想しています。こうした現象は、既に過去数年の金融政策に見受けられます。米国、EU、英国が大幅な引き締めを行う一方、成長サイクルの段階が大きく異なる中国は、政策を緩和しています。日本はもちろん例外で、依然として世界でも最も政府による補助金を受けた債券市場を運営しています。各国間の成長サイクルのばらつきは、世界中のパブリック市場とプライベート市場に柔軟に対応できるPIMCOにとって、刺激的な機会を生み出す可能性があります。

スタフォード:米ドルの見通しを教えてください。

クラリダ:準備通貨としての米ドルは、10年にわたる過大評価の波に洗われ、その後、平均回帰する傾向があります。これは長期的に、エマージング通貨と先進国通貨の両方に対米ドルのポジションを取る機会をもたらすと考えています。特にグローバル・サプライチェーンが拠点を友好国に移すフレンド・ショアリングの傾向は、国、通貨、セクター間で勝者と敗者を生み出す可能性が高く、アクティブ運用会社としてこれは非常に魅力的だと考えています。

スタフォード:商業用不動産(CRE)市場に移りましょう。この市場の見通しと、どこに機会を見い出しているかを聞かせてください。

アイバシン:商業用不動産は、今後5年、魅力的な分野だと思いますが、全体として厳しい課題に直面しています。しかし、まさにこうした課題こそが、商業用不動産市場に数十年来で最良の機会をもたらすのであり、資本を投入すべきだと考えています。

米国では、規制当局による精査、銀行の破綻、間近に迫る景気後退により伝統的な貸し手は脇に追いやられています。一方、向こう5年に、世界で2.4兆ドルの集合住宅用ローンおよび商業用不動産ローンが返済期限を迎える予定です。こうした状況から、組成、買収、資産運用のスペシャリスト300名強からなるPIMCOのグローバルチームには様々な機会が生まれると考えています。今後返済期限が到来し、資金が必要となる不動者所有者に対する新たなローンの組成もその1つです。PIMCOが重点を置くのは、単純に資本構成が現在の金利上昇環境に適していない稼働資産のニーズに応えることです。これにより、非常に魅力的な条件や財務制限条項(コベナンツ)を引き出すことができます。新規資本を投入すべき、比較的リスクの低い投資機会が膨大に生まれると予想しています。また、バランスシート管理に取り組む私募不動産市場の貸し手や銀行から、商業用不動産ローン債権を割引価格で購入できる機会も増えると予想しています。

循環的なディストレス資産に加え、忍耐強いプライベート・エクイティ投資が今後5年間に魅力的になると考えています。PIMCOでは、人口動態、デジタル化、脱炭素化などの長期的なテーマが追い風となる不動産に最大の機会があるとみています。具体的には、住宅(集合住宅、新規住宅開発、賃貸住宅)、産業用施設、AI革命で有利に見えるデータセンターなどを選好しています。

対照的に、小売やオフィスなど特定の商業用不動産セクターの見通しは、より厳しいものになる可能性があります。ただし、国や都市によってばらつきがあるでしょう。オフィス・セクターでは、大半の労働者がオフィスに戻った欧州やアジアよりも、米国で多くの処分売りが予想されます。こうした処分売りは、品質が下位から中位の建物に集中する一方、最高級の資産は嵐を乗り切ると考えられます。(PIMCOの2023年6月の見通し「不動産市場の展望」をご覧ください。)

スタフォード:最後に何かあればお聞かせください。

アイバシン:こうした環境は債券投資にとって、ここ数年で最高の機会をもたらすと予想しています。クレジット・サイクルが進み、市場の過剰が解消される中で、PIMCOではパブリック市場とプライベート市場の両方にまたがる広範かつ深いグローバル・プラットフォームを活用して投資機会を見極めます。その間、世界経済の下振れリスクが積みあがる中で、質の高い債券が時間的猶予をくれるはずです。

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過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では償還時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。高利回りで相対的に格付けの低い証券には、相対的に格付けの高い証券よりも高いリスクを伴います。また、そのような証券に投資するポートフォリオはそうではないポートフォリオに比べて、より高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。住宅/商業モーゲージローンと商業不動産ローンへの投資には期限前返済、支払遅延、担保権執行(フォークロージャ―)に関するリスク、損失リスク、サービシングのリスク、規制変更リスクを伴い、不良債権の場合にはそれらが高まる可能性があります。不動産及び不動産に投資するポートフォリオの価値は、災害または収用による損失、地域経済または経済全般の状況の変化、需給、金利、固定資産税率、家賃に関する規制、都市計画法また運営費などにより変動します。モーゲージ担保証券や資産担保証券に対する投資は極めて複雑なものであり、金利水準の変化や繰り上げ返済リスクにさらされる場合があります。プライベート・クレジットは、流動性リスクを伴う可能性のある非公開有価証券に投資する可能性があります。プライベート・クレジットへの投資ポートフォリオにはレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を伴うことがあります。オルタナティブ戦略は高いリスクを内包しています。投資をお考えの場合には、これらの戦略が、運用に関して流動性を必要とせず、投資元本すべての損失の可能性を含む経済的リスクに耐えうる、十分な金融手段を保有している投資家にのみ適している点にご留意ください。

金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。

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