インカム戦略アップデート:質の高い債券で安定性を追求

要約
- 世界経済見通しにおいて高水準のボラティリティが続くなか、魅力的な利回りが見込まれる、質の高い債券への投資を目指しています。
- インカム戦略では、米政府系モーゲージ債のオーバーウエイト・ポジションを継続しています。投資適格債との対比でスプレッドが依然として高く、万一ハードランディングに陥った場合でも、強靭性(レジリエンス)を発揮するとみられることがその理由です。
- 米国の赤字は懸念材料であり、米ドルのアンダーウエイトを選好しています。ただ、米ドルは世界の準備通貨であり続けると予想しています。
- ストラクチャード商品のシニアは、リターンが魅力的でレジリエンスがあるとみています。特に、高所得の消費者と関連した投資を選好しています。タイトなスプレッドを考慮し、企業クレジットのエクスポージャーは限定的です。
不確実性は依然高いですが、債券利回りも高く、アクティブ運用者にとって魅力的な投資機会につながると考えています。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノの質問に答え、PIMCOの世界経済の見通しと、それを踏まえたインカム戦略のポジショニングについてご説明します。
問:投資環境を形作る主要テーマについて、PIMCOの見通しを教えてください。
答:最近公表した見通し「分断の時代」では、毎年恒例の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)の議論を踏まえた見解をお伝えしました。向こう5年の世界経済と金融市場を形作るダイナミクスとして、政府債務の増加、世界の多極化、持続的なボラティリティを特定しました。これらの要因を背景に、経済、政治、中央銀行のサイクルの同調性は低下する可能性が高く、結果として、市場間の相関性は低下すると考えられます。実際、ここ数年、そうした状況を目の当たりしてきました。
複数年にわたって経済とインフレのボラティリティが高まると予想しており、金融市場にはある程度のリスクが生じますが、相対価値の機会がもたらされることにもなるとみています。こうした環境においてリターンを創出する能力については、パッシブ運用との対比で優位にあると前向きに捉えています。債券の開始時バリュエーションは非常に魅力的です。過去には退屈だったかもしれない市場は、イールドカーブ、通貨、産業、経済全般でボラティリティが高まった今では刺激的に見えます。
これらすべてが、創造的破壊の技術革新の時代に起こっています。人工知能(AI)は長期的な生産性に変革をもたらしうると認識していますが、生産性の大幅な向上は、企業クレジット内の特定のセグメントや銘柄を混乱させる可能性があります。
問:米国およびその他地域における成長・インフレ見通しについて、PIMCOの基本シナリオを教えてください。
答:PIMCOの基本シナリオでは、世界全般で成長は減速を続けると予想しています。ユーロ圏の成長率は、パンデミック前の年率約1%から、向こう5年は約0.5%に減速する可能性があります。中国経済は、債務が増加し人口動態が悪化する中で、低成長軌道に移行しつつあります。
米国の成長率は年1.5%程度に落ち着くと予想しており、基本シナリオでは当面、米国は景気後退を回避できると予想しています。ただ、この見通しに対するリスクは相当あり、市場価格は、こうしたリスクに対してやや慢心があることを示唆しています。また、米国の現政権が、今後の経済データやその他のシグナルに基づいて政策をどう調整するかについても、大きな不確実性があります。4月2日の関税発表直後よりは前向きな見方になっていますが、経済リスクは現在織り込まれている水準よりやや高まっていると考えています。
インフレに関しては、関税は少なくとも一時的には物価水準全般の上昇につながると考えています。しかし、向こう数年で見ると、米国のインフレ率は現在より低下基調となり、米連邦準備制度理事会(FRB)の目標水準に近づくと予想しています。一部の先進国では、インフレ率が若干逆方向に動く可能性があり、ここでも、興味深い相対価値の投資機会につながるとみています。
問:世界の中央銀行の金融政策についてはどうみていますか。
答:ほとんどの中央銀行がさらなる利下げを検討しているとみています。FRBについては、時間の経過とともに、目標金利を中立水準の約3%まで徐々に引き下げると予想しています。PIMCOの基本シナリオではありませんが、リスクとして景気後退に陥った場合は、さらに金利を引き下げる可能性があります。一方、景気が堅調で、インフレが高止まりないし再加速した場合(これも基本シナリオではありません)、より制限的なスタンスを維持する可能性があります。引き続き不確実性が著しく大きい環境にあり、金融政策がその影響を受ける可能性がある点は、いくら強調してもし過ぎることはありません。
米国以外に目を向けると、イングランド銀行については、現在市場に織り込まれているよりも低い政策金利の軌道を見込んでいます。欧州中央銀行(ECB)と日本銀行は今のところ据え置いているようですが、ECBは必要とあらばもう1回の追加利下げを検討している可能性があり、日銀は長期的な引き締めバイアスを継続しています。
問:米国の赤字、米国の債務の持続可能性、米ドルの役割についての見解を聞かせてください。
答:米ドルがすぐにも準備通貨の地位を失うとは考えていません。しかし、インカム戦略においては米ドルを小幅アンダーウエイトとしています。米ドルは他のグロバール資産をアンダーパフォームしています。米ドルは、向こう数年、他通貨に対して引き続き軟調に推移すると予想しています。
赤字は懸念材料です。米国経済が拡大を続けたとしても、年間の赤字は5%から7%の幅で、債務の対GDP比は過去最高水準に押し上げられると予想しています。しかし、準備通貨という米ドルの特殊な地位や、米経済の数多くの構造的優位性、そして軍事力の強さを勘案すると、米国はイールドカーブ全体に大きな混乱を引き起こすことなく、そうした赤字を計上し、他の先進国を上回る対GDP比の債務水準で経済を運営することは可能だと考えられます。
とはいえ、世界で質の高い金利市場は米国だけではありません。政府が債務水準の引き下げで予算の均衡を図り、経済がさらに脆弱な国、地域は他にもあります。これは、私共にとって、金利エクスポージャーをグローバルに分散させる魅力的な機会になります。
問:インカム戦略におけるポジショニングをどう考えているのか、まず金利リスクから教えてください。
答:現在見受けられる、全般に楽観的な市場とは対照的に、これまで説明してきた不確実な世界においては、強靭性(レジリエンス)と柔軟性に重点を置きながら、グローバルな投資機会全般で魅力的な利回りの活用を目指している点をまず強調しておきたいと思います。
実際、過去数年間、金利が大幅に売り込まれた後、グローバル債券市場の開始利回りは魅力的であり、ドル・ヘッジした場合は特に魅力的に見えます。最近のインカム戦略全体の金利エクスポージャーは4年から5年のレンジで、2021年後半よりも高いものの、過去最高ではなく、ブルームバーグ米国総合指数を下回っています。
5年から10年の満期を目標レンジとしています。これはイールドカーブのスティープ化の恩恵を受ける領域であり、ハードランディングのシナリオが現実化した場合や、市場が織り込む景気後退確率が上昇した場合には、大幅にアウトパフォームする可能性があるとみています。
また、期間の短い米物価連動債(TIPS)も積極的に組み入れています。TIPSに投資したのは、インフレ懸念が大きいからではなく、短い満期の価格が魅力的だからです。最後に、利回りが上昇している米国以外の質の高い市場への分散を継続しており、英国のポジションや豪州の一部のエクスポージャーを増やしています。
問:インカム戦略は、イールドカーブの長期部分について、あまり前向きでなくなっています。財政赤字に関する市場の様々な見解を踏まえ、その点について詳しく教えてください。
答:長期米国債の危機を予想しているわけではありませんが、赤字拡大とインフレのボラティリティを考慮すると、イールドカーブは現在より若干スティーブ化するはずだと考えています。PIMCOの見方は、米国の財政状況をめぐる穏当な懸念を反映したもので、米政府はおそらく長期債の売却を増やす必要があり、インフレのボラティリティは、世界金融危機後の数年間と比較して高まる可能性があると考えています。しかし、経済へのショックは、長期部分の調整ラリーにつながる可能性があることも認識しています。
問:債券市場の様々なセクターについてみていきましょう。まず、最も魅力的だと思うセクターを教えてください。
答:政府系モーゲージ債(MBS)は、魅力的な利回りを提供する質の高いセクターの代表例です。加えて、様々な年限やクーポンを取引することで、追加のリターン創出を狙うことができます。また、可能性は低いもののハードランディグ・シナリオが現実となった場合には、企業クレジットに比べてかなり強靭性が高い領域だと考えています。
さらに、政府系MBSのスプレッドは、引き続き投資適格社債を上回っています。米政府機関または米連邦政府によって保証されている政府系MBSのスプレッド拡大は、特異な相対価値の機会を反映しています。トランプ政権が政府支援企業(GSE)の民営化を支持しているとの議論はありますが、その可能性は低いとPIMCOではみています。
問:次に、ストラクチャード商品や企業クレジット・エクスポージャーに対する、インカム戦略の方針について聞かせてください。
答:強靭性(レジリエンス)を重視し、質の高いポジションと魅力的な利回りを求めています。したがって、投資適格格付けの上限にあるストラクチャード商品を選好しています。傾向として、消費者信用リスクをオーバーウエイトとしています。とりわけ、住宅の正味資産価値が大きい、高所得世帯に関連する投資を選好しています。
規制当局は同じセクターを再度救済したくはありません。このセクターは、2007年と2008年にトラブルを引き起こしました。現在、ストラクチャード商品は、引受が保守的になるとともに、コベナンツや文書が厳格になっている傾向があります。このセクターは、景気減速が顕在化した場合に大幅にアウトパフォームする可能性があり、インカム戦略における同セクターのエクスポージャーは、引き続き重要な分散化手段だと考えています。
対照的に、企業クレジットのエクスポージャーは、過去のレンジの最低水準に近づいており、スプレッドが非常にタイトで、これらの市場にやや慢心が広がっているとの見方と一致しています。より慎重な姿勢を取っている分野の1つが、担保付シニアローンです。これらの証券は、世界金融危機時には比較的底堅く推移し、同セクターは監視の強化を回避してきました。しかし、発行量が大幅に増加したことに加え、原資産の軟化に連動して変動金利型ローンが増える傾向があるため、これらローンについてはより慎重な見方をしています。
企業クレジット・セクターを否定するつもりはありません。ファンダメンタルズは底堅いとみていますが、リスク・リターンのプロファイルが良好な市場は他にあります。
問:エマージング市場についてはどうみていますか。
答:エマージング市場は、魅力的なバリュエーションを提供し、長期的に好調な展開となる可能性が高いとみています。とはいえ、ボラティリティの抑制と強靭性の向上という全般的なテーマに沿って、過去数年はエマージング全体のエクスポージャーを引き下げることを選択しました。にもかかわらず、その比率は小さいものの、インカム戦略にとってエマージングのエクスポージャーは重要なアルファ創出源となっています。インカム戦略では、厳選したエマージング市場とエマージング通貨に的を絞った小規模なエクスポージャーを保有しており、米ドルに対するアンダーウエイトを補完しています。例えば、ブラジル、メキシコ、トルコ、南アフリカに対する小幅なオーバーウエイト・ポジションを保有しています。
問:債券対現金、あるいは債券対株式に関するPIMCOの見解について、投資家から大きな関心が寄せられています。今後の投資配分について、投資家は何を期待すべきでしょうか。
答:現在の利回りの絶対水準を見ると、債券でリターンを生み出す可能性は、株式や現金に比べて非常に魅力的だと考えています。実は、現在の金利水準との対比でみると、株式は史上最高値に近い水準にあります。多くの方から金利はもっと上がるのではないか、と聞かれます。確かに上昇する可能性があります。そして、歴史を参考にするなら、金利が上昇する環境では、株式はアンダーパフォームする可能性があります。
現金に関しては、投資家は現金からシフトすることで、リスクスペクトラムの外側に移動し、上昇した債券利回りを固定できる魅力的な機会があると考えています。予期せぬ成長ショックが発生した場合、金利は急速に低下する可能性があります。
全体的なリスク目標と投資期間により、各投資家の最適な債券エクスポージャー水準は異なりますが、数年前の水準がどうであれ、現在はおそらくもっと高くなっていると考えられます。
最近の市場は、私共の見解を裏付けています。今年はこれまでのところ、不確実性のなかで安定性を重視する、インカム戦略のリスク認識アプローチが功を奏し、プラスのリターンを牽引しています。
結論:低金利時代と比較して、現在はポートフォリオの債券配分を高めるべき、確たる根拠があると考えています。
ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
ご留意事項:債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境下ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。デリバティブ商品とモーゲージ関連商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、さらに流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。
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