グローバル市場では、3月第4週の半ばごろまでは、債券とリスク資産の値動きに顕著な差が観察されていました。短期債の利回りが急激に上昇し、イールドカーブのフラットニングが進むなかでも、クレジットを中心に通貨や株式などリスク資産のプレミアムは小動きにとどまり、市場の注目が引き続き、経済成長の深刻な落ち込みよりもインフレの上昇リスクに集まる様子がうかがえました。
市場がこのような反応を示す背景には、昨年の「解放の日(トランプ関税の発表日)」直後のボラティリティ上昇の経験があると考えられます。足元では、地政学情勢が複雑さを増しているものの、投資家は政策動向を過度に重視せず、ダウンサイド・シナリオに傾斜しすぎない行動をとる傾向が強まっています。しかしながら、直近2営業日の価格動向を見る限り、分極化の動きは弱まり、市場の注目が経済成長の下振れリスクにシフトしている可能性がうかがえます。
中東における軍事衝突の今後の道筋は、依然として極めて不透明ですが、軍事衝突前の状況への回帰が予想よりも遅れた場合、経済成長リスクが広範かつ大幅に再評価される可能性が高いと考えられます。こうした非対称性を踏まえると、引き続きデュレーション(金利リスクの指標:年限が長い債券ほどデュレーション・リスクが高い)のポジションをとる意義は高まります。現在の環境と2022年のインフレ上昇局面を比較すると、なおさらです。(詳細はPIMCOの最新の短期経済展望「重層化する不確実性:紛争、信用ストレス、AI」をご参照ください)。足元では、2022年当時よりも労働市場の需給バランスは改善し、資金調達コストは増加し、総需要は抑制されています。
リスクヘッジ手段としての米ドル・債券:ヘッジの難易度は増すも局地的にとどまる
今年2月のリスクオフ局面において、米国債は実効的なヘッジ機能を提供したものの、その後のパフォーマンスは一貫性を欠き、リスクセンチメントが軟化する局面にもかかわらず、利回りは上昇しています。その結果、インフレ・リスクが支配的な環境下での米ドルと債券のヘッジ効果の有効性を巡る議論が、再び活発化しています。
各資産クラスの相関は、現時点では過去のパターンと概ね整合的に推移しています。年初来の約60取引営業日に注目すると、日次ベースでも移動平均ベースでも、10年物米国債利回りの上昇、米ドル建て投資適格債スプレッドの拡大、米ドル相場の下落が同時に起きるケースは極めて稀であり、発生頻度は長期的な中央値を下回ります(図表1)。この傾向の持続性を評価するには、2025年4月の「解放の日」の直後までさかのぼる必要がありますが、そのタイミング以降は、持続性を示す証拠は限定的にとどまります。
米ドル建て投資適格債は底堅く推移するも、一部では相対価値に割高感が見られる
米ドル建て投資適格債のスプレッドは、イラン紛争発生直前から5bpしか拡大していません(3月27日現在)。こうした底堅さの背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 米ドル建て投資適格債のスプレッドには、1~2月に見られた社債の大量発行というテクニカル要因を反映する形で、紛争発生前の時点でリスク・プレミアムが上乗せされていたため、一定の余裕度が存在していたこと。
- 市場金利の上昇を受けて高格付け銘柄の投資妙味が高まり、需要の喚起につながったこと。
- 起債市場の動きが落ち着いたことで、供給過剰の状況が緩和されていたこと。
どの要因がどの程度寄与しているかは不明ですが、結論は明らかです。投資適格債には、CDSインデックス(CDX IG)と比べても、また、やや意外なことですが、金利のボラティリティ上昇を受けてスプレッド拡大が続く米政府系モーゲージ債(MBS)と比べても、局地的な割高感が生じています(図表2、3)。
クレジットと株式の連動性が低下
ここ数週間、米ドル建て投資適格債の底堅さに加えて、3つの大きなテーマが浮上しています。
第1に、イラン紛争の発生後、米欧の両市場において、クレジットは通常の感応度(ベータ)が示唆する以上に、株式をアウトパフォームしています(図表4、5)。PIMCOでは、S&P500株価指数の銘柄集中度の高さだけでは、紛争発生後における米ドル建てクレジットの相対的なパフォーマンスの高さを十分に説明できない点に留意しています。ベンチマークをS&P500均等ウェイト指数(SPW)に変更しても、アウトパフォームしている点に変わりはありません(図表4)。
第2に、米欧のマクロ環境を比較すると、経済成長、インフレ、ポリシーミックスなどの面で欧州の方が悪化傾向にあり、それを反映して米ドル建てクレジットはユーロ建てクレジットをアウトパフォームしています。第3に、欧州の市場では、投資適格の企業クレジットがソブリン・クレジットをアウトパフォームしています。企業クレジットのスプレッドは、イタリア国債やフランス国債の対ドイツ国債スプレッドよりも拡大幅が限定的で、市場では、企業の信用力よりも財政リスクが重視されている様子がうかがえます。原油価格が反落に転じない限り、こうした相対価値の構図が逆転する展開は、想定しにくい状況にあります。
新興国市場クレジット: 中南米が好調
ブルームバーグ新興国市場米ドル建てインデックスで見ると、年初来のトータルリターンはマイナスで推移していますが、イラン紛争の発生後、地域間のばらつきが大幅に拡大しています。なかでも、投資開始利回り、コモディティ向けエクスポージャー、米国市場との連動性という3つの主要な要因に支えられて、中南米が大きくアウトパフォームしています(図表6)。
一点目の投資開始利回りに関しては、年初時点で中南米の債券スプレッドは指数を約80bp上回り、他地域と比べて最も割安な水準にありました。その後、アウトパフォームする傾向が見られたものの、対インデックスの超過スプレッドは依然として60bpに達しています。二点目のコモディティ向けエクスポージャーに関しては、中南米のカントリー・エクスポージャーはメキシコ、ブラジル、アルゼンチンが約半分を占めるため、原油および農産物の価格上昇は同地域にとってプラスに作用しています。また、中南米は、アジアに比べて中東からの原油輸入への依存度が低いという側面もあります。最後のポイントとして、中南米地域は歴史的に米国の経済成長との連動性が高く、各国が国内問題を抱えるなかでも、米国経済は他の先進諸国をアウトパフォームする可能性が依然として高いという事実が、プラス要因となります。
波及的影響の把握: BDCが保有するローン(BSL)エクスポージャーの全体像
ここ最近、新たに非上場BDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー:企業向けにダイレクト・レンディングを実施する投資ビークル)2社が、投資家からの解約請求に事実上の制限を設けました。解約を求める圧力が強まると、運用会社は流動性を確保するため、BSL(幅広い投資家向けに組成されるシンジケートローン)をはじめとする比較的流動性が高い資産の売却を余儀なくされる可能性があり、隣接するパブリック市場に影響が波及するのではないかという懸念が繰り返し聞かれています。
上場BDCと非上場BDCの資産保有状況は、有力な手がかりを提供します。PIMCOの推計によると、BDCによるBSLの保有残高は昨年第3四半期末時点で約210億ドルであり、その大部分が非上場BDCのポートフォリオに含まれます(図表7)。これはBSL市場全体の1.4%程度、BDC全体の純資産価額(NAV)の6%未満の水準に相当します。
この規模のエクスポージャーであれば、ストレスが生じた場合でも、BSL市場で大規模な強制売却が起こる可能性は低いと考えられます。解約請求は実体を伴う動きであり、非上場BDCの間で広がりを見せていることは確かですが、BSL市場への直接的なフロー主導の波及リスクは依然として限定的です。
もっとも、ローン市場には、ソフトウェア・セクター向けの大規模なエクスポージャーを筆頭に、独自の本質的な課題が存在するため、プライベート・クレジット関連のフローとは無関係に、パフォーマンスには下押し圧力が生じています。
米国バーゼルⅢ最終化案(B3E): 高格付けの証券化商品にとってわずかながらプラス、銀行債の供給にはプラス・マイナス両面が存在
先日、米通貨監督庁(OCC)、米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)は共同で、銀行の自己資本規制に関する修正案を公表しました。より厳格な内容のバーゼルⅢ「エンドゲーム(最終化案)」(B3E)を、比較的シンプルでリスク・センシティブな(リスクに連動する)枠組みに代替するものであり、概ね予想に則した内容と考えられます。世界金融危機前の標準への回帰とはほど遠い内容の変更ですが、リスクウェイトの引き下げと細分化を通じて、わずかながらも実質的な所要自己資本の軽減が図られています。
特に住宅ローンに関しては、LTVの定義を緩和することで、所要自己資本を追加的に引き下げる内容となっています。全体として、銀行にとっては、今回の修正案によってバランスシートの余裕度が高まり、住宅ローンや証券化商品のシニア・トランシェなど、高格付け資産の保有を増やすことが可能となります。
今回の修正案は、高格付けの証券化市場にとってわずかながら支援的な内容であり、追加的な需要を喚起するとともに、借り入れコストを低下させる効果が期待されます。これに対して、銀行のバランスシート上に、企業向けのレバレッジ融資が目立った形で回復する可能性は低いとみられます。
銀行債の発行に対する影響については、より多面的に捉える必要があります。自己資本規制の緩和は、基本的にバランスシートの拡大と銀行債の発行を促すと考えられますが、最近の動向を見る限り、その影響は限定的にとどまる可能性があります。全体像を示すと、昨年の投資適格債の純発行額に占める銀行債の割合は5%にとどまり、世界金融危機以降では2番目に低いシェアとなりました。また、今年に入って、銀行シニア債は投資適格債インデックス全体をわずかながらアンダーパフォームしています(図表8、9)
銀行とプライベート市場の相互関係: 米欧における興味深い対比
ここ最近、欧州中央銀行(ECB)が、欧州の銀行が保有するプライベート・クレジット向けエクスポージャーについて精査していると報じられています。米国でも同様の議論が以前から展開されていますが、両者の相互関係は米欧間で大きく異なるように思われます。
米国では直接的かつ細分化されたデータが容易に入手できるのに対して、欧州ではデータに制約が存在します。このため、両者を比較する場合、同一の基準に基づかない2つの異なるデータに依拠することになります。ユーロ圏では、ECBによるその他金融仲介業者(投資ファンドを含む)向け融資に関するデータが、ファンド向けの与信業務を表わす大まかな代替指標であるのに対して、米国では、より細分化された分類に基づく数字が入手可能です。
その点に留意した上でも、両者の比較は示唆に富んでいます。図表10で示したように、米国においては、銀行の総資産残高に占める非預金取扱金融機関向け融資の割合は、この10年で2倍近くに上昇し、約8%に達しています。これに対してユーロ圏では、3.5%近辺で概ね横ばいとなっています。
米欧間のこのようなコントラストは、米国においてプライベート・クレジットおよびプライベート市場全般が急速に成長している状況と、欧州において銀行が非金融系企業向け直接融資の分野で、引き続き中心的な役割を担っている状況を反映しています。別の言い方をすると、米国では、プライベート・クレジットの運用会社にとって、流動性とレバレッジを提供する銀行の役割が増しているのに対して、欧州では、そのような相互関係は限定的にとどまると言えるでしょう。
本稿は、マイケル・パンペル、ガブリエル・カゾビエイユとの共同執筆によるものです。