アジア太平洋地域は2026年に、分岐する政策経路、変化する世界の貿易構造、そして足元の米国の政策変更の余波に直面しています。最新の短期経済展望「積み重なる債券の投資機会」で示したとおり、中国、日本、米国での財政緩和が地域成長の下支えとなる一方、インフレは概ね抑制されています。
中国は成長率を4~5%のレンジに維持することを目標としており、輸出は底堅いものの、物価下押し圧力と国内需要の弱さが続くなか、引き続き政策支援が必要となっています。日本は財政刺激策と漸進的な正常化に向けた金融政策に支えられ、緩やかな拡大が見込まれます。オーストラリアは、民間需要の改善に支えられつつも依然として引き締め気味の政策スタンスのもと、トレンド近辺の安定成長軌道にあり、インフレは足元で再び目標を上回っています。
韓国、台湾、シンガポールといった比較的規模が小さく開放的な経済は、AI(人工知能)主導の投資サイクルと底堅いエレクトロニクス輸出の恩恵を引き続き受けています。関税の影響には比較的耐性がある一方、国ごとの結果は一段と不均一になりつつあります。
対照的に、インドネシア、インド、フィリピンなど内需主導の市場ではすでに信用の拡大に鈍化がみられ、より強力な公共投資と一段の構造改革の必要性が示唆されています。
このような環境下では、投資家は選別姿勢を強める必要があります。具体的には、政策経路の分岐を踏まえた相対価値の機会に焦点を当てるとともに、金利、為替、クレジット環境の変化に敏感であることが求められます。
主要市場スナップショット
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国名 |
投資機会 |
注意すべき分野 |
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中国 |
デュレーションのオーバーウェイト、 |
デフレ圧力、不動産セクターの弱さ、 |
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日本 |
超長期ゾーンの日本国債 |
財政を巡る不確実性 |
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豪州 |
デュレーションの小幅オーバーウェイト、 |
インフレリスク、家計の予算制約 |
中国:政策支援と持続するデフレ圧力
堅調だった2025年を経て、中国経済の成長は、輸出の多角化とAI主導の産業高度化による押し上げ効果が薄れるにつれ、4%台前半へ鈍化する見通しです。
中国の製造規模とコスト優位はなおも大きく、第15次5ヵ年計画(2026年~2030年)では生産性、技術開発、戦略的インフラに一層の重点が置かれています。これらの優先課題は、中国が世界輸出シェアを拡大し、バリューチェーンの上位へとさらに移行する一助となりえます。
一方、国内需要に回復の兆しは乏しいと言えます。昨年の耐久消費財の買い替えを促した政策効果が薄れるにつれ、減速傾向が鮮明になっています。また、投資も、インフラ活動の鈍化や不動産セクターの再編が重しとなり、信頼感の低下を招き、家計の予防的な貯蓄を高めています。
インフレは低水準にとどまる見込みであり、過度な価格競争と過剰生産を抑制する政策により、需要と供給の不均衡の一部を相殺されると見られます。
財政赤字は拡大する可能性が高く、消費や社会保障、戦略的インフラ、不動産市場の安定化に向けた支援はさらに強化される見通しです。中国人民銀行は、金利引き下げや潤沢な流動性の供給、その他の特別措置を通じて、金融緩和を継続する可能性が高いでしょう。
米中間の通商摩擦が続くなかでも、中国の輸出競争力とコスト面での優位性は、世界市場におけるシェアを下支えするとみられます。ただし、その波及効果は、これまでの景気サイクルほど大きくはならないでしょう。
アジア各国の輸出モメンタムは、昨年の高い伸びの反動に加えて、関税の影響や中国との競争激化が重なり、やや弱含む可能性があります。半導体サイクルとの結びつきが小さい国では、開放的な経済構造を背景にテクノロジー関連需要の堅調さが引き続き追い風になる一方、経常収支に下押し圧力がかかる局面も想定されます。
中国の輸出価格が軟化することで、アジア全体のインフレ抑制には寄与するものの、一部の市場では貿易収支や企業収益の重荷となる可能性があります。消費のリバランスが進まない現状や、国内での技術開発を重視する姿勢は、今後も地域全体のダイナミクスを左右していくでしょう。
投資機会
足元のインフレ抑制と金融緩和の継続を踏まえると、中国債、とりわけ長期国債の見通しは依然として良好だとみています。
堅調な経常収支と資本フローの回復は、人民元が米ドルや主要通貨に対して緩やかに上昇する展開を支えそうです。中国人民銀行は為替の調整ペースを管理し、安定を確保するとみられます。人民元高は家計の購買力を高める一方、消費押し上げには直結しにくく、企業利益率の圧迫や雇用面の課題を強める可能性もあります。
内需刺激策が奏功すれば、クレジットや株式の上昇基調は持続するでしょう。逆に、不動産の再度の悪化や関税圧力はリスク資産の重しとなるでしょう。
日本:漸進的な金融政策正常化の下で進むバリュエーション改善
10年国債利回りは足元で2%を上回り、約30年ぶりの水準に達しています。これにより、バリュエーションは日本のマクロ環境との整合性が高まっています。基調的インフレは1.5〜2%程度で安定し、PIMCOの中期見通しと一致しています。
2026年を展望すると、PIMCOのベースラインでは、トレンドをやや上回る経済成長と、年平均で2%をやや下回るコアインフレを想定しています。この結果、10年国債利回りは概ね現在の水準で推移する見通しです。この環境下では、日銀は政策正常化を緩やかに進め、今後12ヵ月で政策金利を25〜50bp引き上げ、1〜1.25%の水準に向かう可能性があります。
この想定レンジから利回りを押し上げる複数のリスクが存在します。円安や予想外のインフレ加速は追加利上げにつながる可能性があります。一方、高市政権の拡張財政は不確実性を高めますが、最終的には市場のけん制が働くとみています。逆に世界景気の悪化やAI関連株式の調整は、国債利回りを押し下げる要因となり得ます。
投資機会
日本の足元の利回り水準は、長らく続いた低利回り期を脱し、魅力的な投資機会を示し始めています。満期やセクター、銘柄を選別することで、デュレーションリスクとクレジットの質を日本の広範な債券ベンチマークに概ね合わせつつ、円ベースで総利回り3%を超えるポートフォリオを構築できます。インフレが2%近辺でも、こうしたポートフォリオは国内投資家にとって一段と魅力的になっていくとみています。
高い利回りは、金利低下局面でのキャピタルゲインの可能性を提供するほか、景気悪化や株式市場のボラティリティ、急激な円高に対するヘッジにもなり得ます。
グローバル投資家にとって、足元では為替ヘッジプレミアムが追い風となり、円建て債券の相対的魅力が高まっています。海外の同等の債券と比べ、ヘッジ後利回りで上積みが得られます。
PIMCOは引き続き、利回り曲線の超長期ゾーン(30年国債など)を選好しています。財政リスクへの懸念は残るものの、イールド・カーブのスティープ化に加え、財務省が超長期の発行を抑制しやすいインセンティブがこのポジショニングを支えています。一方、中期ゾーンは、円安やインフレ加速の局面では相対的に脆弱と見ています。
オーストラリア:底堅い成長の下で続く金融引き締め姿勢
オーストラリア経済は、公的部門主導から民間主導の成長への移行が続いています。インフレ率は足元でオーストラリア準備銀行(RBA)の2〜3%の目標レンジを再び上回っており、重要な問いを投げかけています。現在の政策スタンスで、トレンドを上回る成長につながる持続的な消費主導の回復を本当に支えられるのか、という点です。PIMCOは、その実現可能性は高くないとみています。
家計所得に占める利払いと税負担の比率は歴史的高水準にあり、家計の金融環境は依然として引き締め的です(図表1参照)。小幅な追加利上げの可能性は否定しないものの、PIMCOは3.6%のキャッシュレートはすでに十分に引き締め的であり、2026年にかけてインフレを目標水準へ戻すことに寄与するとみています。
政策が引き締め的である以上、政府支出の縮小を民間部門の活動が完全には埋めきれず、失業率は緩やかに上昇していくとみています。長期的な中立キャッシュレートは3%程度と推計しており、インフレが落ち着き、成長がトレンド水準に戻れば、政策金利は最終的にこの水準へ収れんしていく可能性が高いと考えています。
投資機会
オーストラリアの債券市場は、今後1年を展望しても引き続き魅力的だとみています。市場は2026年の利上げを織り込みつつあり、10年物のオーストラリア連邦政府債利回りは、10年物米国債を約50ベーシスポイント上回っています。これにより、オーストラリア債は、インカム、分散効果、そしてキャピタルゲインの可能性を兼ね備えた投資先となっています。
企業スプレッドは依然としてタイトな水準にありますが、AA 格の州政府債や AAA 格の住宅ローン担保証券(RMBS)および資産担保証券(ABS)は、過去に比べて相対的に割安な水準で取引されており、スケーラブルで高品質な投資対象となっています。
結論:分岐の中を選別で乗り切る
2026年のアジア市場の成長は落ち着きを見せ、インフレは抑制されつつあり、各国の政策運営は一段と分岐し始めています。こうした環境では、国や資産クラスをまたいだ慎重な選別姿勢が求められます。
- 金利:小規模で開放的な経済の多くでは、利下げサイクルが終盤に近づいています。日本は緩やかな正常化を続け、中国は緩和的なスタンスを維持する見通しです。一部の市場ではバリュエーションの割高感が強まり、調整のリスクが高まっています。財政政策や需給構造の違いを捉えるうえでも、国や利回り曲線を跨いだ相対価値ポジショニングの重要性はいっそう高まっています。
- 為替:人民元の緩やかな上昇は、開放経済の通貨を下支えする一方、内需主導の市場では成長や貿易フローの弱さが重荷となる可能性があります。また、いくつかの通貨でボラティリティが高まっており、アクティブ運用の必要性が一段と明確になっています。
- クレジット:需給環境は引き続き良好です。銀行の資本基盤は総じて健全で、テクノロジー分野は構造的な投資の追い風が続いています。オーストラリアの質の高いスプレッド・セクターや日本の新発債には魅力的な利回り機会が見られる一方、価格面での規律は不可欠です。
地域差を的確に取り込み、高品質のキャリーと相対価値を優先する投資家は、断片化が進む市場環境の中で最も機会を捉えやすくなるでしょう。