急速に進む景気サイクル
- 財政政策支援、実質GDP成長率は2021年にピークに達した可能性が高く、世界経済は現在、景気サイクルの終盤に向かって急速な歩みを進めているように見えます。金融政策は、ほとんどの地域で正常化路線に方向転換しました。
- 財と労働の両市場における摩擦が、インフレに拍車をかけています。PIMCOの基本シナリオでは、世界のインフレ率は2022年第1四半期にはピークに達し、その後は緩和して、2022年末には中央銀行の目標水準に近づくと予想しています。ただし、この見方に対する上方リスクを注視しています。
- リスクプレミアムや利回りは、潜在的な下方シナリオを反映していないため、ポートフォリオ構築には注意が必要であり、厳格なアプローチが求められると考えています。
- 全般にベンチマークに対してデュレーションの小幅アンダーウエイトを選好しています。また、イールドカーブのスティープ化に備えたポートフォリオの構築を目指しています。ボラティリティが上昇する可能性を踏まえ、アクティブなデュレーション管理が、過去に比べてより重要なアルファ(超過収益)の源泉になりうると予想しています。
- PIMCOでは、米国の非政府系モーゲージ債、厳選した新型コロナウイルス関連回復テーマ、個別の投資機会など、多様なリターンの源泉となりうるクレジット・エクスポージャーを求めています。世界の株式については建設的な見方をしていますが、景気サイクル終盤の動きに備え、銘柄選択により重点を置いています。
短期経済見通し
不確実性が、世界中の市場、経済、地域社会における継続的なテーマとなっています。こうした環境の中、先頃、PIMCOの投資プロフェッショナルが再びバーチャル形式で集結し、シクリカル・フォーラム(短期経済予測会議)が開催されました。フォーラムでは、最終的に向こう1年の見通しとハイレベルなポートフォリオの運用戦略の策定に必要な世界の経済、政策、投資セクターの主要なトレンドについて議論しました(詳しいフォーラムのプロセスについては、以下のビデオ)をご覧ください)。
経済見通し:ボラティリティと不確実性の増大
向こう5年における世界経済は、マクロ環境の不確実性が増し、ボラティリティが大きくなるとみています。また、景気サイクルは期間が短く、振幅が大きくなり、国によるばらつきが大きくなると予想しています(詳細は、PIMCOの 長期経済展望 「変革への備え」)をご覧ください)。こうした長期の投資テーマは、短期にも当てはまるように見られます。世界経済の多くは、2020年から2021年にかけて広がった極端に緩和的な状況からの迅速な政策転換が必要となり、景気サイクル初期の回復局面からサイクル中盤の拡大局面へと急速に移行していると見ています。
さらに問題を複雑にしているのは、新型コロナウイルスの不安定な行く末と相まってこの経済回復スピードが、インフレ率を上昇させた財と労働の両市場における大きな摩擦を促進している点です。これらの問題が解消され、インフレが緩和される時期と程度はきわめて不確実であることから、長期的なインフレ期待が望まない形で急上昇するリスクが高まっています。これは中央銀行が何よりも回避し、緩和したいと考える事態でしょう。全体として不確実性が増し、より不安定になった現在のマクロ経済環境は、過去数十年にわたる低成長と目標以下のインフレがもはや過去のものになったことを示す証拠であり、今後はより大きく、地域やセクターごとのばらつきのある変動と不確実性が見られるでしょう。
石が敷き詰められた回復への道
前回(2021年6月)の短期経済展望 「インフレ上昇、変曲点へ」でお伝えして以来、地域やセクターごとのばらつきはあるものの、世界的に力強い回復が続いてきました。近代史上最大級規模の経済収縮の中で需要を下支えするための財政政策が、最速ペースの回復をもたらしたと言えます。先進国の生産高は2021年第3四半期に完全に回復し、世界的流行(パンデミック)前のピーク水準に達しました。2021年の成長率は推定5%(年平均)と、過去30年超で最速のペースで拡大に向かっていました(成長率および生産高の出所はヘイバー・アナリティクス)。
とはいえ、パンデミックによる最大の経済的 影響が過去のものになる中、政策支援、ひいては実質GDP成長率も2021年にピークに達した公算が高いと言えます。米国、カナダ、英国では、パンデミック中に家計と個人消費を下支えするために導入された雇用・賃金補助プログラムが、年間を通じて減額された後、2021年第3四半期に終了しました。欧州各国の同様のプログラムも2021年末に終了しました。
中国では、ごく最近まで続いていた信用条件の厳格化と、共同富裕という政府の政策目標のために導入された規制政策により、成長が鈍化しました。
また、ほとんどの地域の金融政策は、パンデミックの影響で必要とされた超緩和的なスタンスから、正常化路線へと方向転換しています。イングランド銀行(BOE)とカナダ銀行(BOC)は、国債購入プログラムを完全に終了しました。米連邦準備制度理事会(FRB)も、2022年3月までに資産購入プログラムを終了する見通しです。さらにBOEは、2021年12月に政策金利を引き上げました。欧州中央銀行(ECB)と日本銀行(BOJ)を除く、他の多くの先進国の中央銀行も利上げが近いことを示唆しています。
過去6カ月に見られた世界経済の成長は、昨年6月に発表したPIMCOの見通しとほぼ一致しています。しかし、3つの重要な進展により、2022年の見通しを様々な面で見直しました。
第1に、新型コロナウイルスのデルタ株は、一時的ではあるものの先進国とエマージング諸国の両経済に、予想以上に大きな影響を与えました。ワクチン接種率の向上により、世界的に新規感染者数は抑えられたように見えますが、エマージング諸国ではより深刻で、生産が妨げられ、配送期間が長くなり、世界のサプライチェーンが寸断されました。例えば、マレーシアと中国における生産の混乱は、自動車、家庭用品、建設業界の完成品在庫に大きな影響を与えました。デルタ株は、主要な市場全般でサービスの回復も遅らせました。(特にパンデミックにより耐久財への消費需要が高まった後、)主要市場では財からサービス消費への回帰が期待されていましたが、これも停滞しました(図表1を参照)。
第2に、インフレが持続的で、地域を越えて広範囲に及んでいることが判明したことが挙げられます(図表2を参照)。生産の混乱が相次ぎ、環境規制が強化される中でも世界的に旺盛な消費需要は、エネルギーを含めた様々な消費者向け小売り分野の価格上昇をもたらしました。一方、住宅価格の力強い上昇は、(再調達コストの上昇を通して)直接的に、あるいは(家賃への波及効果を通して)間接的に、ほとんどの地域でコア・サービスのインフレ率を押し上げました。
第3に、こうした動きに対して多くの中央銀行 は、ほとんどの先進国では、前述のように金融政策の引き締め計画を前倒しにし、ブラジルを含むエマージング諸国では、より積極的な金融引き締めで対応しました。
2022年の見通し:「ゴルディロックス」シナリオ
こうした複合的な要因を鑑み、PIMCOでは2022年の実質GDP成長率の見通しを、全ての地域で引き下げました。先進国のGDP成長率は、2021年の年平均5.0%から2022年には4.0%に減速すると予想しています(前回の予想は4.3%)。2021年後半に世界各地で流行したデルタ株は、様々な地域で生産高を抑制し、2022年の年平均成長率の予測の重しとなる可能性があります。しかしながら、生産への影響は概ね一時的だったと見られます。実際、高頻度指標を見ると、米国と日本では2021年第4四半期に成長が再加速し、中国では一時的に後退した後、第3四半期に成長が再加速したことが示唆されています。欧州は、第4四半期に別の変異株の流行による経済的打撃を受けましたが、2022年初頭に経済の再加速が予想されています。
PIMCOでは、すべての地域でインフレ予想を引き上げました。先進国のインフレ率は、2021年第4四半期の5.1%をピークとし、2022年末までに各中央銀行の目標水準に向かって緩和されるとの予想を維持しています。米国のコアCPI(消費者物価指数)インフレ率は、2022年第1四半期に前年同期比6.0%あたりでピークをつけた後、年末には2.5-3.0%まで低下すると予想しています。地域によって程度の差はあるものの、財政刺激策は全般にインフレ率を押し上げる要因となりました(図表3を参照)。ただし、財市場の供給制約の高まりと、財とサービス間の相対的な価格調整も影響しているように見えます。しかしながら、経済がパンデミックからの回復を続け、2020年と2021年に実施された多額の財政支出が繰り返されることはないため、こうした要因はすべて消えていくとの見方は変えていません。
最後に、最近のインフレのオーバーシュートの大きさと持続性から、PIMCOでも先進国の利上げサイクルの開始時期が早まると予想し、多くのエマージング諸国の最終的な利上げ水準も予想を引き上げました。
先進国では、利上げは過去の基準から見ると緩慢なものになると引き続き予想していますが、インフレの亢進と労働市場の急速な回復が相まって、中央銀行は政策を中立に戻すことに焦点を絞るようになったと見ています。政策金利がどの水準であれば中立であるのかについては、かなりの不確実性が存在します。しかしながら、PIMCOの長期経済展望 「変革への備え」(2021年10月)では、今回の景気サイクルにおいては、債務水準が全般的に高く、中央銀行がバランスシートの縮小に努める結果、中央銀行の最終的な利上げ水準は、前回サイクルに比べて低くなる可能性が高いと論じました。そのため、中央銀行は引き続き政策の正常化を比較的、段階を追って進めることができるとみています。
先進国では、2021年12月のBOEの利上げに続き、2022年第1四半期にBOCが利上げを実施すると予想しています。FRBについては、現時点で2022年3月までに資産購入を終了し、その後間もなく利上げを開始し、2022年上半期に段階的に縮小を始める可能性が高いと見ています。また、オーストラリア準備銀行(RBA)も、FRBに続いて2022年に利上げを実施する可能性が高いでしょう。
エマージング諸国に目を向けると、ほとんどの中央銀行は、2021年にインフレ圧力を回避するために既に大幅な引き締め政策を実施していますが、2022年も利上げを継続すると予想しています。さらに、インフレ率はエマージング諸国全般で年内に緩和される可能性が高いものの、短期的に中央銀行の目標水準に達する可能性は低いだろうと見ています。
より深刻化する見通しに対するリスク
全体として、これらの調整は、PIMCOの2022年の見通しの大枠を変えるものではありません。すなわち(減速しているとはいえ)トレンドを上回る成長とインフレの緩和を背景に、先進国の金融状況は引き続き段階的に引き締まっていくと予想しています。しかしながら、PIMCOの基本シナリオに対する重要なリスクが3つあり、全般に不確実性の高い環境になっていると考えます。
リスク・シナリオ1:インフレ率が持続的に上昇。その背景として以下の要因が考えられます。(1)供給制約が緩和されない(あるいは、変異株の流行で悪化)。(2)(少なくとも米国での)足元の堅調な生産性の伸びのトレンドが鈍化。(3)プライムエイジ(25歳~54歳の働き盛りの世代)の労働参加率の回復や、移民の受け入れによる労働供給の増加が実現しない。あるいは、既にインフレ率が上昇した結果として、インフレ期待が高まり、賃金交渉の強化を促すことから、インフレの持続性を高める可能性もあります。
リスク・シナリオ2:変異株による感染者数の急増に伴う経済活動の制限。感染力の高い変異株のオミクロン株に関連した最近の新型コロナウイルス感染者の急増により、パンデミックの行く末が不透明であり、私たちの見通しの基本シナリオも多くの不確定要素を抱えていることを再認識させられました。現時点ではPIMCOは、最近の感染者数の急増により先進国の第1四半期の成長率は一時的に鈍化するものの、第2四半期以降は再加速し堅実な成長を取り戻すと見ています。とはいえ、新たな感染者の増加の波は、リソースをさらに逼迫させ、消費者や企業の行動変化を促し、活動を低下させ、インフレ圧力に拍車をかける可能性があることには留意しています。
リスク・シナリオ3:金融状況が予想よりも急速に引き締まる可能性。 超緩和的な金融政策が続いてきましたが、今後、金融状況が劇的に変化する可能性があります。これまでのところ先進国の中央銀行は、早期の引き締めに向けた準備を首尾よく市場にさせてきましたが、市場が織り込んでいるのは今でも段階的な利上げであり、最終的な利上げ水準も過去に比べて低いと想定しています。今後数カ月は、米国のインフレ率が高止まりする可能性が高い期間となり、その後は2022年後半にかけて緩和が見込まれますが、市場がFRBの引き締めサイクルがより積極的になるリスクを織り込んだ場合、特に米国の金融状況が急速に引き締まる可能性があります。
投資への意味合い
PIMCOの経済見通しから、投資見通しに大きな影響を与えるうる問題が様々あることがおわかりいただけると思いますが、特に重要なのが、異例の金融緩和の縮小に向かう中央銀行の初動のスピード、規模、そしてその施策内容の変化です。
今後注目するのは、経済サイクルが終盤に向かうペースが急速なことに伴うボラティリティです。こうした時期は、現在のようにインフレが加速し、金融政策の引き締めを促し、多くの投資家を不安にさせる傾向があります。
市場は中央銀行が大幅な利上げをすることなく、どうにかソフトランディングを達成するという、晴天のシナリオを織り込んでいるようです。とはいえ、歴史を振り返ると、金融政策の転換期には時に「何かが起こる」ことを想起させてくれます。
リスクプレミアムや利回りは、潜在的な下方シナリオを反映していないため、ポートフォリオ構築には注意が必要であり、厳格なアプローチが求められると考えています。
今後のインフレ関連指標については、2022年初頭に相次いで発表されるデータが懸念されますが、一連のデータを過度に重視しないことが重要だと考えています。概して、短期的なマクロ見通しに依存した重大な投資決定を回避し、政策立案者や投資家が短期的な情報に過剰反応する可能性を注視する方針です。
このように警戒すべき点はあるものの、PIMCOでは全般的に魅力的なリスク・リターン特性を持つスプレッド商品を組み込んで、ベンチマークに対してプラスのキャリーをもたらす可能性のあるポートフォリオの構築を重視します。結局のところ、マクロ的な見通しは明るく、経済成長に伴うキャッシュフローの増加は、投資家にとってもメリットがあると考えています。
ただし、マクロ経済や金融状況次第で、変動、減少、消失するキャッシュフローを捉えるには、厳格なアプローチによるポートフォリオ構築が求められます。例えばPIMCOでは一般に、ベータ(市場全般のパフォーマンス)に依存するポジショニングを減らし、グローバルな投資機会の活用を増やし、ポートフォリオの潜在的なパフォーマンスを評価するシナリオ分析を行っています。また、好機が訪れた時に追求できるように、ポートフォリオの流動性と機動性を高めています(そのため、リスク予算(リスク対応のための余地)に余裕を持たせています)。
次に、ポートフォリオのポジショニングの詳細を見ていきましょう。
デュレーション、イールドカーブ
デュレーションの水準: 利回り曲線に組み込まれたリスクプレミアムが少ないことを主な理由に、全般にデュレーションをアンダーウエイトとする方針です。ボラティリティが上昇する可能性を踏まえ、アクティブなデュレーション管理が、過去に比べてより重要なアルファ(超過収益)の源泉になりうると予想しています。デュレーションは、投資ポートフォリオにおいてよりリスクの高い構成要素のバランスを取る分散手段として機能していると考えています。ただし、相関関係が変化する可能性には注意しています。
長期経済展望 で述べたように、世界経済には様々な変革が影響する可能性がありますが、中央銀行は何年にもわたって政策金利を低位に保つと予想しています。市場参加者も同様の見方をしているようで、これが金利のターム構造を抑える要因になっています。
概して、クレジットや株式のエクスポージャーが相対的に高いポートフォリオについては、デュレーションをより中立に近づけ、イールドカーブについて同様のポジションを取ることになるでしょう。
イールドカーブのポジショニング: イールドカーブのスティープ化のポジショニングに傾いていますが、通常よりも若干少なめです。何十年にもわたりスティープ化を支えてきた構造的影響が弱まっている証拠がいくつか見られること、また、今後の利上げを踏まえて足元で短期金利が再評価されていることが、その理由です。
中央銀行の金利に対するPIMCOの長期経済展望を踏まえ、債券利回りが先物金利の現在の水準を大幅に超えることは想定しておらず、比較的タイトなレンジに留まると見ています。さらに、市場参加者は長期債に大幅なターム・プレミアムを積み上げるとは見ておらず、歴史上、長期債の利回りに影響を与えてきた二大要因を失うことになるでしょう。
PIMCOのマクロ経済見通しも、イールドカーブのポジショニングに対する見方を支持しており、インフレ率の低下により、将来の利上げが制限されると予想しています。しかしながら、潜在的に起こりうる様々な結果を考慮するとこの見解にはやや注意が必要で、イールドカーブポジションのエクスポージャーを控え目にし、リスク予算を他の分野の投資に活用することが妥当だと考えられます。
カナダ、英国、ニュージーランド、オーストラリアのイールドカーブに沿ったエクスポージャーを取るなど、イールドカーブのポジショニングの分散に多くの好機があると見ています。
クレジット市場
経済成長が続くとのPIMCOの見通しと、世界の中央銀行が打ち出したタカ派的な政策転換に対する市場の準備状況を勘案して、一般にはクレジットをオーバーウエイトとしますが、いくつか注意点があります。1つは、クレジット・スプレッドがさらに縮小する可能性が低いことから、クレジット・エクスポージャーの源泉の多様化を図ること、そして、そのエクスポージャーの中で現物社債の占める割合を小さくすることです。その代替として、また社債エクスポージャーの流動性、キャリー、コンベクシティ、ロールダウンを強化するために、クレジット・インデックスへの傾斜を強めています。これにより、分散効果が期待でき、守りの特性を発揮できると考えています。
PIMCOのクレジット・スペシャリストは、エクスポージャーに値する銘柄を引き続き把握しています。しかしながら、ファンダメンタルズで正当化できる以上にクレジット・スプレッドが拡大した場合に、プリンシパルーエージェント・モデルの崩壊によって社債市場の流動性が構造的に損なわれることを懸念しています。
それでも、個別銘柄の選択がクレジット市場におけるリターンの源泉であり続けるものと考えています。これには、BBB格債への投資も含まれ、同セグメントをA格債よりも選好しています。金融企業、さらには大きな変革の恩恵を受けるとみられるセクターに加え、厳選した新型コロナウイルスからの回復テーマ(ホテル、航空宇宙、観光)に、控えめながらも投資しています。
また、PIMCOのクレジット・スペシャリストが、魅力的な非流動性プレミアムや複雑性プレミアムを引き出すことのできる資産の発掘を続けています。この点で、PIMCOが選好する資産としては、多くのストラクチャード商品や、米国の非政府系モーゲージ債(MBS)などの資産担保証券が挙げられます。市場は縮小していますが、優先度、企業信用に対する守りの特性、キャッシュフローの観点から、魅力的な証券化商品は依然として数多く存在すると考えています。米国の住宅市場については楽観的な見方をしています。
政府系MBSについては、概してバリュエーションが割高であり、FRBの月次債券買い入れプログラムの縮小と終了に対して過剰反応する可能性があることを踏まえ、アンダーウエイトしています。テーパリング前の政府系モーゲージ債の買い入れ額は400億ドルに上っていました。ポートフォリオの観点からは、MBSの持ち高を減らすことで、MBSをベンチマークとするポートフォリオのコンベクシティ・プロファイルが改善される可能性があります。
PIMCOのスペシャリストは、国や地域をまたいでクレジットへの投資を分散する機会を特定しており、投資妙味があり、戦略に適している場合には投資を行っています。概して、PIMCOではエマージング市場のクレジットについて慎重に見ています。
投資家が比較的容易にアクセスでき、それゆえ割高になりやすいパブリック・クレジット市場とは対照的に、プライベート・クレジット市場にはそうした性質はなく、係る追加リスクを許容できる投資家にとっては非流動的投資バスケット内において検討すべき、厳選されたプライベート・資産の投資機会があると見ています。
物価連動債
物価連動債については、インフレリスクに対する分散手段であり、適度なクレジット・ベータを確保するための手段でもあると考えています。PIMCOのスペシャリストが厳選した相対価値のある機会を除いては、物価連動債のグローバルなポジショニングはほぼ横ばいを想定しています。またFRBの債券買い入れプログラムが終了した暁には、米物価連動債(TIPS)の主要なスポンサーも不在になります。
為替市場およびエマージング市場
主要為替レートについては、相反する影響が見られます。そのため米ドルについては、中立に近い立場をとる方針です。FRBのタカ派的な方針転換の恩恵を受ける可能性がある一方で、米国が巨額の財政赤字を抱え、赤字を穴埋めするために諸外国の資金に依存しているなど、長期的なダイナミクスがマイナスに働く可能性があるためです。今後の米ドルの持ち高は、それぞれに魅力のある通貨のポジションとの組み合わせで決まってくると考えています。魅力的な通貨には、例えば一部のエマージング通貨が含まれる可能性がありますが、G10の主要国通貨には投資機会が乏しいと考えています。
エマージング諸国の現地通貨建て債、外貨建て債については、特に米国の金融政策が引き締まる中で、変動の激しい資産クラスへの投資には多くのリスクが伴う点に留意しています。それでも、ポートフォリオの分散と、現物社債への投資を減らしたいと考えから、エマージング諸国に魅力をもたらす多くの要因に注目しています。
具体的には、エマージング資産のヒストリカル・ボラティリティが高い点は注意すべき理由ですが、一方で、現在の魅力は、価格の大幅な下落や極端に弱気な市況など、資産を魅力的にしうる基本的な投資原則に則ったものだと考えられます。これら2つの要因が、昨年のエマージング資産に影響を与えており、特に現地通貨建てエマージング債の利回りは、先進国債に比べて実質利回りに大きな余裕があると考えられます。分散投資の観点から見ると、このクッションには価値があると考えています。
エマージング通貨については、いくらか投資機会があると考えており、エマージングの資産クラスの中では比較的流動的な手段だと考えています。全体としては、引き続きエマージング投資の特異性に留意しつつも、PIMCOのスペシャリストの力を借りて、価値ある投資先を見極めていく方針です。
株式市場
最近のアセットアロケーション展望「変革の最中の投資機会」で述べているように、PIMCOでは減速しつつもプラスの業績を背景に、世界の株式に対して建設的な見方をしています。とはいえ、景気サイクルの終盤のダイナミクスに備え、銘柄選択をより重視しています。景気サイクルの終盤では、過去と同様に大企業や信用力の高い企業がアウトパフォームすると考えています。また、価格決定力のある企業も恩恵を受ける可能性が高いでしょう。半導体セクターは、長期的にアウトパフォームする可能性があります。デジタル化や脱炭素社会に向けた多くの対策など、 長期経済展望 で論じた変革のテーマに関連した旺盛な需要の恩恵を受けることが理由です。インフレの動向は、株価収益率に悪影響を及ぼすと予想され、基本シナリオでは数%の下落を見込んでいます。
コモディティ市場
コモディティ市場の見通しは微妙です。エネルギー価格には比較的前向きな見方をしていますが、米国のエネルギー生産の増加に伴い、原油価格の上昇は抑えられると見ています。ただし、より規律ある資本投下が行われているため、過去の景気サイクルに比べると、生産拡大の速度は緩慢です。天然ガスの価格は好調な輸出に支えられていますが、米国の生産量の増加により2022年の見通しについては慎重になっています。金価格は、PIMCOのモデルでは実質利回りに比べて大幅なアンダーパフォームとなっており、15年ぶりの安値水準に近づいていますが、短期的に見ると金の割安感はわずかにとどまります。特に魅力を感じているのがキャップ&トレードの排出権取引市場です。この市場はブラウンからグリーンへの転換によって強力に下支えされると見ています。こうした追い風に加え、魅力的な価格からカリフォルニア州の排出権取引市場はコモディティ市場におけるトップアイデアの一つとなっています。
すべての資産
取り上げたコモディティから債券に至るまでのすべての資産クラスを考慮すると、市場は通常より変動が大きくなることが予想されるため、ポートフォリオのリスク要因へのエクスポージャーを頻繁に見直す必要があるでしょう。PIMCOでは、長期的な視点に立ちながらも、短期的な状況を継続的に見直す必要性を認識しています。
短期的な注目分野
先進国における労働市場の逼迫
近代史上最大の経済収縮の後、最も早い回復が、特に労働市場において見られました(ヘイバー・アナリティクスによる)。しかしながら、労働市場の回復は、先進国内でも先進国間でも一様ではなく、ばらつきが見られます。労働市場がどの程度引き締まり、賃金圧力が上昇し、それが消費者物価に転嫁されるかが、金融政策の見通しのカギとなります。
PIMCOでは先進国6カ国を比較し、労働市場が相対的に逼迫している国を特定しました。図表4は、パンデミック発生後の全体の雇用率の推移を示したものです。ただし、政府負担の一時帰休制度により国別比較が難しくなっています。労働供給と求職活動の摩擦に関する広範なデータを取り入れた結果、米国の労働市場が相対的に逼迫しており、オーストラリア、英国がそれに続くとみています。これは中央銀行の動きと一致しており、BOEは既に利上げを実施し、FRBとRBAも2022年に追随することを示唆しています。
米国が突出している理由となりうる点はいくつかあります。第1に、パンデミック対策では一時帰休制度よりも失業保険に大きく依存した結果、定着率が低下しました。第2に、多くの調査によると、米国世帯では健康に対する不安が大きく、それが労働参加率の大幅な落ち込みに寄与している可能性があります。第3に、資産の大幅な増加と私的年金制度の普及が、より柔軟な退職時期を支えていると考えられます。最後に、米国では求職活動の摩擦がより大きな役割を果たしている可能性があります。テレワーク率の高さにより、雇用の需要地と労働力の供給地の地理的なミスマッチが高まっています(図表5を参照)。
その結果、米国では賃金上昇率も他の先進国よりも加速しています。今のところ賃金上昇の加速は、求職摩擦が特に大きい低賃金のサービス・セクターに集中しています。しかしながら、賃金がインフレに与える最終的な影響は生産性にも左右され、米国の生産性は諸外国を上回っています。
多くの指標で、米国の労働市場は逼迫しているように見えますが、生産性を考慮すると労働関連のインフレ圧力は先進国全般で似たり寄ったりになります。
エマージング市場:モメンタムの鈍化、特異な要因
世界経済への寄与が大きいエマージング諸国も、先進国と同様の逆風と順風にさらされていますが、多くの場合、特異な要因を抱えており、それがリスクと投資機会の両方を生み出します。2022年のエマージング諸国のマクロ経済見通しは複雑です。回復が成熟するにつれて成長は鈍化する一方、インフレ率は目標を上回り、さらに上昇を続けると予想されています。回復のペースは、国によって大きくばらつきます。新型コロナウイルスの動向、コモディティへの依存度、グローバルな経済ショックに対する感応度、各国固有の事由に左右されるためです。2022年は、米国の回復が欧州や中国と大きくかけ離れた場合、こうした特性が際立つ可能性があります。PIMCOでは、ブラジル、ロシア、インド、メキシコ(BRIM)の主要エマージング4カ国の2022年のGDP加重成長率は4.1%(前年比)で、2021年の同7.5%から減速すると予想しています。経済活動は、今年前半にはパンデミック前の水準に戻る可能性があります。
エマージング諸国の短期見通しには、引き続きインフレが重要な要因となりますが、インフレ率は、総合、コア共に、目標水準を大幅に上回っています。最近の生産動向や成長の勢いの鈍化から、今後は緩和の兆しが見られるものの、BRIMの2022年の総合インフレ率は前年比6.2%で、全体として2021年の同6.2%から横ばいを予想し、上振れリスクがあるとみています。
エマージング諸国の金融政策は、今後数四半期にわたって引き締まっていく可能性があります。特に欧州と中南米のエマージング諸国についてそうみています。また、2022年にはエマージング諸国の財政インパルスも大きく縮小すると予想しています。新型コロナウイルス関連の支援が打ち切られること、2020年と2021年に計上された巨額の財政赤字が、債務比率の安定化のために抑制されることがその理由です。
2022年はエマージング諸国全体の対外収支は若干拡大する可能性がありますが、この状況は引き続き支えられると見ています。この背景として、全般的に安定した資本収支と柔軟な通貨制度、2021年に付与された国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)によって、特に脆弱なエマージング諸国の外貨準備が強化されたことが挙げられます。エマージング諸国の格付けは、パンデミックの発生後に実施された格下げ以降は安定しており、短期経済予測の対象期間中にエマージング諸国のソブリンがさらに格下げされるリスクは低いと考えています。その代わりPIMCOでは、ブラジルやハンガリーの選挙、ロシア・ウクライナ間の緊張の再燃など、個別の諸国のリスク要因に注目しています。
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PDFをダウンロードするPIMCOの経済予測会議について
ほぼ半世紀にわたって磨かれ、様々な市場環境で実証されてきたPIMCOの投資プロセスは、長期経済予測会議と短期経済予測会議を基盤としています。年に4回、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、世界の金融市場と経済の状況について議論、討論を重ね、投資に関して重要な意味合いを持つと考えられるトレンドを特定します。
年1回開催される長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界経済の構造変化やトレンドを捉えたポートフォリオを構築するため、向こう5年間の見通しに焦点を当てます。毎年セキュラー・フォーラムには、ノーベル賞受賞経済学者、政策当局者、投資家、歴史家などの著名なゲスト・スピーカーを迎え、有益で多面的な知見の提供を受けることで、議論を深めています。また、世界的に著名な経済、政治問題の専門家から構成されるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードも積極的に参加しています。
年に三回開催される短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう6~12カ月間の見通しに注目し、主要先進国やエマージング諸国の景気サイクルのダイナミックスを分析し、金融政策、財政政策、ならびにポートフォリオの構成に影響しうる市場リスクプレミアムや、相対価値における潜在的な変化を見定めます。
ご留意事項
全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場 への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。物価連動債 (ILB) は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。プライベート・クレジットは、流動性リスクを伴う可能性のある非公開有価証券に投資する可能性があります。プライベート・クレジットへの投資ポートフォリオにはレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を伴うことがあります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
アルファとは、リスク調整後の運用成績を計る指標であり、ポートフォリオのリスク調整後の運用成績のボラティリティ(価格変動リスク)とベンチマーク・インデックスを比較することによって求められます。つまり、ベンチマークに対する超過リターンがアルファを構成します。アルファはプラスの場合もマイナスの場合もあります。 ベータとは、市場変動に対する価格の感応度を計る指標です。マーケット・ベータは1と定義されます。ロールダウン とは、上向きに傾斜したイールドカーブを想定して、債券が満期に近づくにつれて実現されるリターンの形態です。
ここでの「割安」、「割高」という用語は、当該証券や資産クラスの長期平均並びに運用担当者の将来予想価格を大幅に下回る、あるいは上回るという意味で使われています。将来の運用成果や、証券の評価による利益の確定または損失の回避が保証されるものではありません。
特定の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が保証されるものではありません。個別の銘柄、および発行体の信用格付はそれらの信用度を示すため付与されており、一般的には、信用格付会社スタンダード・アンド・プアーズ、ムーディーズ、フィッチそれぞれ、最高格付のAAA、Aaa、AAAから最低格付D、C、Dまでの幅があります。
本資料に含まれる予測や推計及び特定の情報は独自のリサーチを基としており、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。予測や推測は本質的な限界があり、実際のパフォーマンス・レコードとは異なり、現実の取引や流動性の制約、手数料およびその他の費用が反映されていません。さらに、将来の成果に関する記述は、お客様のポートフォリオの運用成果の見込みや保証をするものではありません。
金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。
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