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長期経済見通し

変革への備え

マクロ経済の状況が長期的に大きく変化すると予想される中、投資家は慣れない市場の変化に備える必要があるでしょう。
要約
  • 向こう5年の世界経済は、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的流行)が発生するまでの「ニュー・ノーマル」と称した十数年よりも、不確実性が高く、変動が激しく、成長とインフレのばらつきが大きくなるとみられます。
  • グリーンエネルギーへの移行、新技術の迅速な導入、広く成果分配を求める風潮という三つの大きなトレンドが長期的な大変革を主導することになるでしょう。
  • 起点となる足元のバリュエーションや、創造的破壊、分断、乖離で特徴づけられる今後の見通しを踏まえると、資産クラス全般でリターンが低下し、変動しやすくなると見込まれます。しかしながら、変化に対応できるアクティブ運用を行う投資家には、優れた超過収益獲得の投資機会が見つかるはずです。
  • 短期的には景気の継続的な回復に伴い、金利に上昇リスクがあるとみていますが、長期的にはレンジ内にとどまり、コア債券への資産配分ではリターンは低下するもののプラスのリターンを確保できると予想しています。株式については全般に建設的な見方を継続しますが、地域やセクター毎に大きなばらつきが見られるだろうと予想しています。さらに、新型コロナ危機を受けて、プライベート・クレジットや不動産に魅力的なリターンの可能性が生まれたとみており、こうした投資機会を追求していく方針です。

PIMCOは創業50周年を迎え、年に一度開催される長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)は今年9月の開催をもって、40回目の節目を迎えました。昨年同様、バーチャル形式で開催されたことから直接祝うことはありませんでしたが、PIMCOの投資プロフェッショナルは、ゲスト・スピーカー(囲み記事参照)、PIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)、社内の部門横断的なテーマ別チームから多くの情報を収集し、向こう5年間の世界経済、政策、政治、金融市場における新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的流行)後の見通しに焦点を絞り、投資家のポートフォリオへの影響について議論しました。その結論をご紹介します。

命題

投資家も政策立案者も等しく、向こう5年のマクロ経済環境の大きな変化に対応する必要があります。世界金融危機以降、パンデミック前までの「ニュー・ノーマル」と称した十数年は、平均以下ながら安定した成長、目標以下のインフレ、抑制されたボラティリティ、魅力的なアセット・リターンで特徴づけられましたが、そうした特性は急速に失われつつあります。今後は不確実性が高まり、成長やインフレがばらつく環境となり、政策立案者には多くの落とし穴が待ち受けることになるでしょう。創造的破壊、分断、乖離が進む中、資本市場全般でリターンが低下し、変動が激しくなるものとみられます。しかしながら、困難な領域を乗り越えていけるアクティブ運用を行う投資家には、魅力的な超過収益獲得の投資機会が見つかるはずです。

三つの大きなトレンドが、世界経済と市場に大きな変革をもたらす可能性があります。

長期経済見通しの出発点:初期状況

今年の長期経済展望のテーマは、2020年の展望で強調したテーマ「加速する創造的破壊」を発展させたものになっています。昨年時点では、パンデミックが触媒の役割を果たし、米中の対立、ポピュリズム、テクノロジー、気候変動という四つの長期的な創造的破壊要因が加速し、増幅されるだろうと論じました。

この1年の動きは、こうした予想を裏付けるものでした。米中の緊張関係は、継続するどころか、バイデン政権下で激しさを増しています。多くの国でポピュリズムが高まり二極化が進んでおり、ロックダウンや新型コロナウイルスのワクチンをめぐる政治的な対立がこれに拍車をかけています。デジタル化と自動化は、今回のパンデミックを機に一段と加速しています。また、世界各地で頻発する異常気象は、人的・経済的に甚大な損失をもたらし、エネルギー市場を大きく変動させる要因になっています。長期経済予測会議の議論では、こうした長期的な創造的破壊要因はどれも、当面収まることはないだろうとの結論に達しました。

長期経済予測を立てる際に理解しておくべきもう一つの重要な点として、パンデミックに伴う景気後退とその政策対応によって引き起こされた、公的・民間両セクターの債務の急増が挙げられます。確かに、借入コストは過去最低かそれに近い水準にあるため、過去最高の債務水準が直ちに懸念材料になるわけではありません。しかしながら、レバレッジ比率の上昇は、マイナス成長や金利上昇のショックに対して、官民のバランスシートの脆弱性を高めることを意味し、ひいてはソブリンや民間の借り手に対する不安定な取り付けリスクを高めることになります。さらに債務水準が高く、資産・所得比率で見て高度に金融化した経済では、経済に深刻な痛みを引き起こさずに中央銀行が積極的に利上げを行うことは難しくなっています。金融市場の支配というテーマについては、後でもう一度取り上げます。

最後に重要な点として、今回のパンデミックをきっかけに、多くの人がライフスタイルやワークライフバランスの見直しを迫られたり、自ら積極的に変えている点が挙げられます。人々の嗜好が変化するのか、どう変化するのか、変化がどこまで持続するのかを判断するのは、まだ時期尚早です。しかし、「仕事と余暇」、「在宅勤務かオフィス勤務か」、「特定の分野や場所で働くか否か」といった嗜好が大きく変化する可能性は十分にあります。また、パンデミックが終息した後も、多くの人が旅行や大勢の集まりに参加することに抵抗を感じて、消費パターンが恒久的に変化する可能性も考えられます。これは、長期の経済見通しを立てる際にこれまで以上に慎重さが求められることを意味し、今後数年はマクロ経済の不確実性が高まるという、前述の主張を補強するものだと言えるでしょう。

長期的変動要因

長期経済予測会議の議論では、世界経済と市場に大きな変革をもたらす可能性のある三つの大きなトレンドを特定しました。

脱炭素社会は多くの理由から望ましいものの、目的を達成するための道のりは決して平坦なものではありません。

ブラウン(化石燃料)からグリーン(再生可能エネルギー)への移行 :世界の多くの地域で有権者や消費者の関心が高まる中、政府、規制当局、企業セクターは、2050年までに脱炭素化とネットゼロ・エミッション(実質排出ゼロ)を達成すべく対策を強化しています。これは、再生可能エネルギーへの官民の投資が、長期見通しの対象期間中、つまり今後数年にわたって活性化することを意味します。民間セクターは重い腰を上げなければなりませんが、米国の超党派のインフラ法案やEUの「次世代EU」復興基金が、今後5年、「グリーン」インフラに多額の支出を行い、ブラウンからグリーンへの移行を後押しすることになります。

もちろん、クリーンエネルギーへの民間および公的支出の増加は、石炭や石油などのブラウンエネルギー部門への投資の減少や資本減耗によって、完全とは言わないまでも部分的に相殺されることになるでしょう。最近の中国や欧州の動向が示すように、移行期には、供給の混乱やエネルギー価格の高騰によって成長が阻害されたり、インフレが亢進したりする可能性があります。さらに、この過程では勝者と敗者が生まれるため、ブラウン産業における雇用の喪失、炭素税や価格の上昇、あるいは輸入品を割高にする炭素国境調整メカニズムなどに対して、政治的な反発が生じる可能性があります。目的地である脱炭素社会は、経済的理由を含めて多くの点から望ましいものですが、目的を達成するための道のりは決して平坦なものではありません。

新技術の迅速な導入 : 昨年の見通しでは、パンデミックによってデジタル化と自動化が加速すると予想していました。この点は、これまでに入手したデータでも裏付けられており、企業のテクノロジー投資が大幅に増加していることを示しています。1990年代の米国など、同様のテクノロジー投資が盛り上がった過去の例では、生産性の向上の加速を伴っていました。過去1年の動きを見ると、循環的な回復も明らかに寄与しているものの、生産性が大幅に向上しており、同様の状況が再現された可能性があります。最近のテクノロジー投資と生産性の向上が一過性のものなのか、より強力なトレンドの始まりなのかはまだ不明ですが、これまでのデータは、パンデミックが新技術の導入を加速させる触媒の役割を果たしたとの考え方を裏付けています。

デジタル化と自動化は、新たな雇用を生み出し、既存の雇用者の生産性を高めることで、全体として経済的な成果の向上につながります。しかしながら、仕事がなくなり、適切なスキルがないため他で仕事を見つけることができない人々にとっては破壊的な要因になります。グローバリゼーションと同様に、デジタル化と自動化の負の側面として格差が拡大し、政治的に両極端なポピュリスト政策に支持が集まることが挙げられます。

多くの政策立案者や社会が、所得と富の格差拡大に対処し、成長をより包摂的なものにすることに注力しています。

成長の恩恵を幅広く分配 :現在進行中の変革の第三のトレンドとして、政策立案者と社会全体が所得と富の格差拡大に対処し、成長をより包摂的なものにすることに一段と力を入れていることが挙げられます。最近の例では、中国指導部が「共同富裕」を新たなスローガンに、個人の富と所得の格差縮小を目指しています。本稿の執筆時点では、もうひとつの例として、米国の民主党が提案している3.5兆ドル規模の「ソフトインフラ」投資法案があります。この法案では、主に社会的なセーフティネットのプログラムに焦点を絞り、メディケアをはじめ、勤労世帯に対する児童税額控除、全世帯対象の就学前教育、無料のコミュニティカレッジの拡充などに力を入れています。議会を通過するには法案の規模はかなり縮小されるとみられますが、この変更でこうした政策が今後数年にわたって「定着」することになるとみられます。

一方、ESG(環境・社会・ガバナンス)への関心を強める投資家からの圧力や自己満足から、多くの企業が労働条件や給与体系の改善、職場の多様性の向上に注力しています。個別の事例を見ると、多くの企業で雇用主と被雇用者の関係におけるパワーバランスが雇用主から被雇用者へと傾き始め、労働者の交渉力が向上していることがうかがえます。このトレンドが続くのか、それとも企業がテクノロジーの恩恵を受けた在宅勤務の活用にとどまらず、よりコストの低い国内外の拠点に多くの雇用の移管を進めて交渉力を維持ないし高めることができるのか、今後の動向が注目されます。

マクロ経済への意味合い

創造的破壊のトレンドと介入主義的な政策を特徴とする「変革の時代」では、経済サイクルの期間は短く、振れ幅が大きく、国によって大きなばらつきが出てくる可能性があります。労働集約的なグリーン投資の加速や、耐性を高めるためのサプライチェーンの分散や再配置で投資ブームが煽られた後、拡張と抑制を繰り返すストップ・ゴー方式の財政政策やエネルギー価格ショック、あるいは過度に野心的で唐突な規制改正によって、ブームが破裂することは想像に難くありません。

今後は世界的に不確実性が高まり、成長とインフレがばらつく環境が予想されます。

また、短期的に地域や国同士の乖離が大きくなる可能性があります。様々な変革が異なるスピードで進むこと、国ごとに異なる選挙サイクルに左右されがちな財政政策が、需要を牽引する支配的な要因となることがその理由です。さらに、中国が自給自足体制を強化しつつあり、人口動態、債務削減、脱炭素化などから、長期的に成長がさらに減速する可能性が高いことからも、多くのエマージング諸国や先進国の輸出の伸びを牽引してきた大きな共通要因は、その重要性を失っていくことになるとみられます。

経済成長と同様に、「変革の時代」のインフレは、国内ではより不安定になり、地域間のばらつきが大きくなる可能性があります。PIMCOでは、インフレのテールが肥大化しているとの見方を継続しており、インフレ率がかなり高い時期とかなり低い時期が訪れる可能性が高まっているとみています。アップサイド・リスクの要因として、ネットゼロへの移行とその炭素価格への影響、脱グローバリゼーション、積極財政主義、中央銀行の「終わりの見えない」展開が挙げられます。ダウンサイド・リスクの要因としては、技術進歩によって企業がより少ない労力で生産を増やすことが挙げられます。さらに、過去最高水準の債務とレバレッジは、マイナスの成長ショックが起きた場合に、債務デフレのリスクを高めます。

これらを総合すると、相対的に低水準ながら安定した成長、目標以下のインフレ、抑制されたボラティリティ、魅力的なアセット・リターンで特徴づけられた「ニュー・ノーマル」と呼ばれるパンデミック前の十数年は、急速に遠のきつつあると言えます。今後の「変革の時代」には、不確実性が高まり、成長やインフレがばらつく環境になり、政策立案者には多くの落とし穴が待ち受けることになるでしょう。

投資の結論

今後5年の「変革の時代」には、国内でも地域間でも、成長とインフレを見通すことが難しく、不確実性が高まると考えています。創造的破壊と乖離を特徴とする世界は、過去十数年の「ニュー・ノーマル」の経験よりも困難な環境を投資家に突き付けることになるでしょう。しかし、ボラティリティが高く、一般的な正規分布よりも「テールが太くなる」と予想されるこの期間を活かせる能力を持つアクティブ運用を行う投資家には、優れた超過収益獲得の投資機会がもたらされるともみています。

マクロ経済や市場ボラティリティが高くなると、債券市場や株式市場全体のリターンが低下する可能性が高くなります。起点となる現在のバリュエーションは、債券市場の実質・名目の利回りが低く、エクイティ・マルチプルが過去最高水準にあるなど、この予想を裏付けています。

中央銀行の介入は、金融当局のマクロ介入の副産物として資産価格を上昇させました。新型コロナ危機への対応として、先進国がとった金融・財政政策は、最悪の不況の回避に寄与したのは確かですが、中期的に金融市場の脆弱性を助長した可能性があります。世界的に公的・民間両部門の債務水準が高まる中、ミスが許される余地は乏しくなっており、資本の保全に重点を置く必要があります。

PIMCOの基本シナリオでは、中央銀行の低金利が世界の債券市場を下支えすると予想しています。

金利の低い経路

人口動態、貯蓄・投資バランス、高い債務水準など、中立的な政策金利を引き下げてきた長期要因は変わらないと考えています。今後数年は、投資の拡大と生産性上昇が中立金利を押し上げる可能性がありますが、その一方で、家計による予備的貯蓄の増加がこれらの圧力の一部ないし全部を相殺する可能性も否めません。成長やインフレの見通しが不確実であることから、長期見通しの対象期間中に政策金利がとりうる幅は大きくなると考えられます。ただ、PIMCOの基本シナリオでは、中立金利は低いとの見方を継続しています。中央銀行は前回のサイクルで金利の下限から大きく離れることができましたが、金融市場が金利上昇に敏感になっていることから、次の景気サイクルのターミナルレート(利上げの終着点)は低くなる可能性があるとみています。

米連邦準備制度理事会(FRB)を例にとりましょう。FRBは2018年末に政策金利であるFF金利を2.25%~2.5%の目標レンジに引き上げることができ、当時はさらに引き上げる余地があると考えていました。しかし、金融市場にほころびが生じたことでFRBは方針を転換し、2019年に目標金利を1.5%~1.75%に引き下げざるを得なくなりました。これは、パンデミックとその後の緊急対応が生じる前のことです。向こう5年については、金融市場の優位性から、FRBをはじめとする中央銀行が政策を大幅に引き締めることは再び困難になる可能性があります。インフレリスクの高まりが現実のものになれば、選択が難しくなり、ボラティリティの上昇を招きますが、アクティブ運用を行う投資家にとっては投資機会になりえます。

PIMCOの基本シナリオでは、中央銀行の低金利が続き、世界の債券市場を下支えすると考えています。新型コロナ後の環境は、政策当局にとっても市場参加者にとっても意思決定に際して不確実性が増していることから、過去1年で経験したように、成長やインフレについて楽観論と悲観論が交錯する可能性があります。

債券はアセットアロケーション・ポートフォリオ全般で引き続き分散効果を発揮するでしょう。

先進国市場では、実質利回りは低く、マイナスにすらなっています。名目利回りも低く、ユーロ圏の中核国の一部や日本ではマイナスになっています。全般に市場は落ち着き、コア債券への資産配分ではリターンは低下するもののプラスを確保できると予想しています。また、短期的には持続的な景気回復に伴い、金利の上昇リスクがあるとみていますが、長期的にはレンジ内で推移するものと予想しています。

債券はアセットアロケーション全般において引き続き分散効果を発揮すると予想しています。資産クラス全般で期待リターンは低いものの、債券が株式をアウトパフォームする場面(特に、単位あたりボラティリティに基づいた場合)はあるとみています。(低利回り環境下における債券についての詳細はこちら)高インフレ期が続くとの見通しはPIMCOの基本シナリオではありませんが、インフレリスクに対しては、米物価連動債(TIPS)やコモディティなどの実物資産がヘッジ手段になるとの見方を継続しています。

エマージング市場全般に優れた投資機会が見つかると期待しており、幅広い投資機会のセットとしてアプローチしていく方針です。

エマージング市場と先進国市場

今後の投資環境は、マクロトレンド、創造的破壊要因、牽引要因に債務水準の上昇が相まって、地域、国、セクター間で大きなばらつきが出ることが予想され、そうした中で成果を目指すことになります。マクロのパフォーマンスが異なると、勝者と敗者が生まれます。アジアでは、中国の成長鈍化や地政学的緊張の継続に伴うリスクがあるものの、成長率改善や資本市場の発展の見通しから、優良な投資機会が存在するとみています。さらに広く見れば、多くのエマージング諸国が長期的に難しい環境に直面していますが、エマージング市場については、常のごとくパッシブのベータ投資の対象としてではなく、幅広い投資機会のセットとしてアプローチすることが重要であり、PIMCOではエマージング市場全般できわめて優良な投資機会を発掘できると考えています。

中央銀行の政策金利が低水準にある先進国では、景気低迷期には財政政策がより重要な牽引役になると予想しています。パンデミックの最悪期に採用された「戦時」体制が再現されるとはみていませんが、中央銀行だけが奮闘した「ニュー・ノーマル」期に比べて、循環的な景気下降局面では財政政策が積極的に活用されるだろうと予想しています。

単一通貨で異なる財政当局が多数存在するユーロ圏の複雑な事情を考慮すると、ユーロ圏よりも米国や他の英語圏の国々の方が財政レバーを活用する意思と能力が高いと考えられます。ユーロ圏はこれまでソブリン危機を回避しており、新型コロナに伴う景気後退の余波の中で、財政基盤の脆弱な国々に緊縮財政を強いる可能性は低いとみられますが、ドイツとそれ以北の国々は、借入コストがいかに低くとも、あるいはマイナスであっても、財政保守主義を堅持するとみられます。

とはいえ、パンデミックに対するユーロ圏の対応や、パンデミックからの復興に向けた欧州連合(EU)共通の資金調達プラットフォーム「次世代EU」復興基金の創設を見ると、今後も景気低迷時には継続的に共同で財政支援を行うと共に、EUのグリーン目標に資金を提供するとの見通しが高まっていると言えるでしょう。復興基金は、EU初の共同資金調達の試みであり、補助金や融資を通じて国境を越える資金移転を可能にします。欧州の政治、とりわけ(イタリアの債券市場のシステム上の重要性を勘案すると)イタリアのガバナンスが、今後も不確実性と潜在的なストレスの要因であり続けるでしょう。しかしながら、少なくともユーロ圏の安定性が高まるとの見通しを踏まえ、そこから生まれる投資機会を活用していきたいと考えています。

半導体、ファクトリー・オートメーション(FA)、グリーンエネルギー、モビリティ・サプライヤーは、いずれも長期トレンドの恩恵を得られると考えられます。

ESG

ブラウンからグリーンへの移行、新技術の迅速な導入、パンデミック後のサプライチェーンや嗜好の変化も、様々な勝者と敗者を生み出すことになり、社債市場におけるアクティブ運用の重要性が高まります。環境規制の改正は、不確実性と複雑性を高める反面、投資機会をもたらします。ブラウンからグリーンへの移行で損失を被る公算が高い国や企業の場合、高水準の債務が特に懸念材料になります。ESGや気候変動に特化したポートフォリオだけでなく、投資戦略全般でESGファクターを考慮することがきわめて重要であり、PIMCOでは、この分野での質の高い投資プロセスと顧客サービスの提供を目指しています。

各資産クラスの評価

中央銀行の支援が継続され、景気後退時には反循環的な財政政策が実施される可能性があり、実質利回りがマイナスないし低水準という環境下で、PIMCOではアセットアロケーション・ポートフォリオにおいて株式に対する建設的な見方を継続します。既に述べた通り、コロナ後の回復期の現在、デジタル化や自動化、グリーン化の推進などのトレンドを背景に、長年にわたって投資が過小であった物理的インフラへの投資の重要性が浮き彫りになったとみています。過去十数年はソフトウエアへの投資が主でしたが、これからの十数年は、前述のトレンドに関連したハードウエア投資が前面に出てくるとみられます。各国間やセクター間でも、銘柄選択のレベルでも、回復期におけるばらつきと勝者・敗者というテーマが重要になってくるでしょう。特に半導体メーカー、FA機器メーカー、グリーンエネルギー、モビリティ関連企業が恩恵を受けるとみており、PIMCOのポートフォリオ構築において、これらのセクターが重要な役割を果たすものと期待しています。

非流動性プレミアムの活用を検討し、プライベート・クレジット、不動産、および厳選されたエマージング市場で投資機会を追求していきます。

実質および名目金利が低水準にとどまる可能性が高い「変革の時代」においては、伝統的な債券戦略の投資機会を最大限に活用しつつ、柔軟なマンデートにおいてはグローバルな投資機会のフル活用を目指す方針が理にかなっていると考えます。また、お客様のニーズや期待に合致する場合には、不動産、プライベート・クレジットや発展途上にあるグローバルな資本市場を活用するなど、伝統的な債券以外のオルタナティブ投資を模索することも有意義だと考えています。

PIMCOでは、不動産やオルタナティブ・クレジットが魅力的なインカム確保の源泉になるとみており、今後も事業としてこれらの分野に投資を続ける想定です。

定量的な分析能力とテクノロジーは、すべての資産運用会社にとって重要になります。PIMCOでは今後もこうした能力を拡充し、お客様のご要望に応え専用のクオンツ戦略をご提供すると共に、すべてのお客様のポートフォリオにおいてアルファの創出とリスクの効果的な管理を目指す投資プロセスに役立つ知見とサポートをご提供して参ります。



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長期的な注目分野

ESGのトレンドと投資機会

今回の長期経済予測会議では、エネルギーの転換に伴うマクロ経済や地政学的な影響、ESG投資に関する規制の動向についても議論しました。

2016年に採択されたパリ協定では、地球温暖化を防止するため、気温上昇を最大1.5~2.0度内に抑えることが定められましたが、目標達成には程遠いのが現状です。脱炭素化の公約や目標設定は顕著に増えていますが、そうした野心的な目標を達成するために必要な行動はいまだに不足しています。

こうした目標を達成するために必要な(政治的、財政的、人的)資本は莫大で、世界経済に大きな混乱をもたらす可能性があります。拡張可能なソリューションの商業的可能性を考えれば、官民による資本投下は有意義であり、結果として、幅広い資産クラスに投資機会が生まれる可能性があります。政府や投資家がよりクリーンなエネルギー源に資本を再配分することは、長期的なメリットがある一方で、移行の過程で短期的な混乱を引き起こす可能性があります。

化石燃料の需要がピークに達し、それと並行してエネルギー資源の探査や生産に対する規制が強化されESGの圧力が高まる道筋は、長期にわたってエネルギー価格の変動リスクを高め、インフレ上昇圧力につながる可能性があります。

さらに、クリーンエネルギー技術に必要な基礎的な鉱物や原材料の供給源が集中し、特定の国やサプライチェーンに過度に依存している現状では、供給源の多様化と最短でのクリーンエネルギーの実現はトレードオフの関係にあります。各国が協調して気温上昇を2.0度を優に下回る水準に抑えるために、2040年までにクリーンエネルギー技術が必要とする鉱物量は今の4倍です。新旧エネルギーの需要と供給のバランスをいかに保つかが、金融市場の安定と政策立案者への信頼を維持する上できわめて重要になります。

気候変動に関する情報開示要求は、様々な規制イニチアチブを通じて地域を問わず増加しています。一方、気候変動がパフォーマンスを左右する重要な要因と考える投資家の割合も増加しています。気候変動への適応と緩和は、長期予測の対象期間中、政策立案者と規制当局の重点課題となると考えられます。カーボンプライシングや「炭素国境調整メカニズム」などの概念は、今後も多くの国で勢いを増していくことになるでしょう。米国の場合、政治的に連邦レベルでカーボンプライシング政策が導入される可能性は低いものの、一部の州政府は今後もこうした政策を推進する見通しであり、多大な影響を与えることになるとみられます。

全体として見ると、クリーンエネルギーへの転換は、歴史的規模の資本投入イベントだと言えるでしょう。投資家にとっては、移行に伴うリスクと投資機会を直接計測することに加え、資産クラス全体への間接的影響を見極めていくことがますます重要になってきます。PIMCOでは、政策当局や国際機関と継続的な連携を図り、投資家がこの急速に進化する分野におけるリスクと投資機会を分析できるよう、最適なフレームワーク、ツール、ソリューションの開発を支援しています。

PIMCOのESG投資のアプローチについて更に詳しい情報はこちらをご覧ください。


プライベート・クレジットへの投資機会

プライベート・クレジットは、非流動性と複雑性のプレミアムを利用して、公開市場よりも魅力的なリスク調整後リターンが期待できることから、引き続き相対的に投資妙味のある分野だと言えます。世界的な利回り追求の結果、プライベート・レンディング市場の特定のセグメントで大規模な資本形成が行われています。このことがバリュエーションの厳格化や融資保護の脆弱性につながりかねない点に、PIMCOでは注意を促しています。それが顕著なのが、プライベート・エクイティ(PE)をスポンサーとする中堅企業向けの貸付市場です。

こうした背景から、PEがスポンサーとなって行う伝統的な中堅企業向け融資よりも、資本ソリューションやより複雑なアセットベースの融資が、優れたリスク調整後のリターンをもたらす可能性があると考えています。パンデミックが突き付けた課題によって、多くのビジネスモデルやバランスシートに多大な圧力がかかっており、その結果、多くの借り手が非常に複雑でレバレッジの効いた資本構造で現在の環境に突入することになりました。多くの借り手の個別ニーズに応えられるという意味で、現在の環境は民間の貸し手には投資機会となります。こうした投資機会は、多くの場合、シニアローンの形をとりますが、払込資本やストラクチャード・エクイティ投資の形をとる場合もあり、その場合は、高度な交渉に基づくコベナンツで有利になりえます。いずれの場合も、ダウンサイド・プロテクションと疑似株式型のアップサイドを組み合わせることも可能です。

また、住宅ローン融資やスペシャリティ・ファイナンス市場に、相対的に豊富な投資機会が存在するとみています。これらの分野では、堅固な資産担保率、借り手の多様性、伝統的なクレジット市場と相関性の低いインカムの源泉が投資家にとって有利になるとみています。一部の高格付けのモーゲージ債のセグメントでは利回りが低下していますが、米国と欧州の一部地域のレガシー・ローン・ポートフォリオには引き続き投資機会があるとみています。また、最終投資家向けのクレジット・プロテクション付きの新規ローンを組成する投資機会も存在すると考えています。スペシャリティ・ファイナンスの分野では、高格付けの消費者金融や、輸送、知的財産権、レガシー・ローン・ポートフォリオなどの資産ベースの金融に引き続き投資機会があるとみています。

PIMCOのオルタナティブ投資のアプローチについて更に詳しい情報はこちらをご覧ください。


商業用不動産(CRE)の投資機会

新型コロナは、世界の商業用不動産(CRE)市場に多大な影響を及ぼし、不動産タイプによってパフォーマンスのばらつきが生まれています。こうした地殻変動的な変化に加え、世界的な都市化、エマージング諸国における中産階級の台頭、住宅の供給不足、電子商取引の加速、ライフサイエンスの進歩等の長期的なトレンドが投資家の念頭にはあります。

長期的な視野に立つと、商業用不動産市場では、以下のようなテーマが世界的な投資機会を牽引することになると考えられます。

  • 特に世界のホテル・セクターとオフィス・セクターにおける、新型コロナに伴う混乱からの回復。
  • 産業用および住宅用不動産をはじめ、データセンターや代替住宅など新たなニッチ分野など、長期的なトレンド加速の恩恵を受けるセクター。
  • 2022年以降の加速が予想される、新型コロナによって増幅された小売および欧州の不良債権における長期的な混乱の拡大。

投資機会の幅広さを考えると、リスク資産全般に比較的豊富な投資機会があるとみています。インカム志向の投資家にとっては、伝統的な債券やクレジット資産よりも、前述のトレンドの恩恵を受けるコアおよびコア・プラスの資産の方が、魅力的なリスク調整後利回りをもたらす可能性が高いでしょう。さらに、取引量の増加、資産の再配置のための資本ニーズ、規制環境によって、CREのよりシニアな貸し手には魅力的な投資機会が生まれる可能性があります。

オポチュニスティック型やバリュー・アッド型投資家にとっては、回復が続く中で、資産の買収や資本増強に向けた投資機会があるでしょう。具体的には、次世代不動産の将来を見据え、ESGファクターを取り入れた資産のポジショニングの見直しや開発のニーズが高まっています。最後に、債務水準の高さを鑑み、金融機関がバランスシート修復に向けた取り組みを加速させるため、非中核資産、低稼働資産、CRE資産を担保とする不良債権が大量に売却されると予想しています。

PIMCOを支える多様な視点

優れた運用成果を実現するには、第一に準備が必要であると考えています。PIMCOの投資プロセスによって、将来を見据えた革新的なソリューションをお客様に提供するために、世界の変わりゆくリスクと投資機会を継続的に評価することが可能になります。

1982年以来、PIMCOの投資プロセスの目玉となっている長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)は、向こう3~5年間の世界経済や金融市場を方向づける主要な経済および政治要因を明らかにすることを目指しています。世界的に著名な学界の第一人者、政策立案者、その他の外部専門家の協力を得ながら、世界中に散らばるPIMCOの投資プロフェッショナル数百人が、厳格で活発な討論に貢献します。PIMCOでは最近、最新テクノロジーを導入し、デジタル・コラボレーション・ツールを通じて世界各地からの参加を強化しました。これによりリアルタイムでの世界的な交流が可能になり、社内の幅広く深い知見をフル活用しながら、既存の考え方を問い直す能力が向上することになります。



2021年PIMCO長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)ゲスト・スピーカー略歴

スーザン・エイシー

スタンフォード大学経営大学院、技術経済学教授

アルミニオ・フラガ

元ブラジル中央銀行総裁

ジェイソン・ファーマン

ハーバード大学ケネディ・スクール、経済政策担当、エトナ冠講座教授

カイフ・リー

コンピューター・サイエンティスト、起業家、作家

メーガン・オサリバン

イラク、アフガニスタンの元副国家安全保障顧問、ハーバード大学ケネディ・スクール、国際問題担当、カーク・パトリック記念教授

アルフォンソ・プラットーゲイ

元アルゼンチン財務・公共財担当相、元アルゼンチン中央銀行総裁

リカルド・レイス

ロンドン大学経済政治大学院、A.W.フィリップス記念経済学教授

ダニエル・ヤーギン

エネルギー専門家、経済史家、IHSマーキット社副会長

PIMCOの経済予測会議について

ほぼ半世紀にわたって磨かれ、様々な市場環境で実証されてきたPIMCOの投資プロセスは、長期経済予測会議と短期経済予測会議を基盤としています。年に4回、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、世界の金融市場と経済の状況について議論、討論を重ね、投資に関して重要な意味合いを持つと考えられるトレンドを特定します。

年1回開催される長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界経済の構造変化やトレンドを捉えたポートフォリオを構築するため、向こう5年間の見通しに焦点を当てます。毎年セキュラー・フォーラムには、ノーベル賞受賞経済学者、政策当局者、投資家、歴史家などの著名なゲスト・スピーカーを迎え、有益で多面的な知見の提供を受けることで、議論を深めています。また、世界的に著名な経済、政治問題の専門家から構成されるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードも積極的に参加しています。

年に三回開催される短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう6~12カ月間の見通しに注目し、主要先進国やエマージング諸国の景気サイクルのダイナミックスを分析し、金融政策、財政政策、ならびにポートフォリオの構成に影響しうる市場リスクプレミアムや、相対価値における潜在的な変化を見定めます。

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