クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは、発行体の信用リスクを 対象とするデリバティブの一種です。債権を移転することなく、信用リ スクのみを移転させることに特徴があり、発行体のデフォルト(債務 不履行)に対する「保険」に似ています。CDSのプロテクションの買 い手は、クレジット・イベント(信用事由、「倒産」や「支払不履行」な ど)が発生した際、スワップの想定価値と等価の債券を額面で売却で きるという権利と引き換えに、プロテクションの売り手に対して毎年 プレミアム(保険料/オプション料)を支払います。一見オプションと似 ていますが、CDSは実際にはスワップと定義されます。市場取引では 一般的に、CDSのポジションはプロテクションの買い/売りとして認識 されていますが、プロテクションの売り手はクレジット・リスクを買っ ているのに対し、プロテクションの買い手はクレジット・リスクを売っ ている、ということを理解しておくことが重要です。
CDSのプレミアムは、スワップ期間中、および参照債務にクレジッ ト・イベントが発生するまで支払われます。参照債務にクレジット・ イベントが発生した際、スワップ契約は終了、プレミアムの支払いも停止し、プロテクションの売り手との間であらかじめ契約で決めら れた方法にて、現物決済もしくは現金決済が行われます。
CDS取引は、もともとは銀行が保有するクレジット・エクスポージャー を他者に移転し、引当金を軽減する目的から形成されました。その 後、CDSが普及するに従い、その取引形態も標準化されるようにな り、特に2002年にワールド・コムやエンロンの破綻問題が発生した 際にもCDS市場が円滑に機能したことで、CDSの利用が拡大しまし た。さらには、証券化商品を参照先とするCDSやCDSを裏付けとす るシンセティックCDO(合成債務担保商品)等の出現により、市場 規模は急拡大しました。しかしながら、CDSを組み込んだ金融商品 の一部において構造が複雑化し過ぎたことにより、リスクの所在が 不透明になったことが市場参加者の懸念を生み、CDS取引にかか わるリスクが大きく注目されることとなったため、2008年の金融危 機以降は市場参加者が減少し、CDS市場は縮小に転じました。当 該事象を受け現在では、取引の安全性と市場の透明性を高めるた めにCDS清算機関の設立を進めるなど、CDS市場の整備が進めら れています。
資産クラスとしてのCDS
CDSと社債
ある参照債務のプロテクションを売る(信用リスクを取得する)場 合、短期金利で資金を調達しその参照先の発行する変動利付債に 投資しているのと類似した経済効果があります。
例えば、現物債を保有する場合と、CDSでプロテクションを売却し ていた場合、参照先X社に債務不履行(デフォルト)が発生すると、そ れぞれの場合の経済効果はどのようになるでしょうか。
- 現物債(額面1億円)を保有している場合
投資家の手元にはデフォルトしたX社社債が残りますが、その価格 は通常額面よりも大幅に低いものとなります。現物債投資家の損失 = {(100円) – (デフォルトした現物債価額)}×1億円 / 100
- X社を参照先とするプロテクションを想定元本1億円分売却してい る場合 (現金決済/オークション決済の場合)
投資家は社債の額面(100円)と参照債務の市場での評価額(オーク ション決済の場合は主要ディーラーの参加するオークションによっ て決定された価格)との差額を支払います。
CDS投資家の損失 = {(100円) – (デフォルトした参照債務の評価 額)}×1億円/100
* クレジット・イベント発生時の決済方法は各CDS契約において規定され、 主流となっているオークション決済以外にも現物決済と呼ばれる決済方 法があります。現物決済の場合、プロテクションの売り手は想定元本分 の現金をプロテクションの買い手に支払う一方、デフォルトしたX社の社 債を受け取ります。(受け取った社債を市場で売却することで現金決済と 同等の経済効果となります。)
一方、社債取引とCDS取引の主な相違点は以下の通りです。
①社債市場では信用リスクをショート(空売り)することが難しい一 方で、CDSではプロテクションの買いによって比較的容易に実現 できる
②CDS取引では元本には実際の現金は投資されないため、CDSで は少額の現金で金額の大きな取引が可能
③CDSではクレジット・イベントの発生の認定が社債よりも広範囲 (債務再編によるクレジット・イベント認定など)
④CDS取引にはカウンターパーティー・リスク(CDSの取引相手の 破たんなどにより契約通り取引が行われないリスク)が存在
CDSの対象
CDSはさまざまな信用リスクを移転することができます。
注)記載された企業名は例示のみを目的とするものであり、特定の銘柄の売買の勧誘・推奨を行うものではありません。
CDSへの投資
機関投資家によるCDS取引が急速に拡大した理由は、CDSを用い ることでアクティブ・ポートフォリオ・マネジメントにおける社債やエ マージング債等に対するクレジット・エクスポージャーの管理がより カスタマイズしやすくなり、運用者の意図するリスクポジションが取 りやすくなる利便性にあるといえます。債券運用におけるCDSの利 用方法としては以下の例が挙げられます。
- 信用リスクに対するヘッジ(プロテクションの買いポジション)
- 現物債を保有するのと同様の信用リスクを取得(プロテクションの売りポジション)
- 現物債市場には存在しない投資期間の設定
- 流動性の少ない発行体に対する信用リスクの取引
- 通貨リスクを排除した外国の発行体銘柄に対する投資
- インデックス取引(市場全体の信用リスクの取得、またはヘッジ)
- 現物債とのスプレッドに着目した取引 = ネガティブ・ベーシス取引
ネガティブ・ベーシス取引
CDSのスプレッドが現物債のスプレッドよりも小さい状態にあるこ とをネガティブ・ベーシスと呼びます。ネガティブ・ベーシスは、CDS と現物債の特性や需給などの違いから発生すると考えられていま す。ネガティブ・ベーシスが発生している場合、社債の買いに、社債 発行体を参照組織とするCDSのプロテクションの買いを組み合わ せることによって、信用リスクをヘッジしながら、社債のスプレッドと CDSのプレミアムの支払いの差額を収益として確保できるアービト ラージ(裁定)ポジションを構築することができます。