流動性とは、資産を迅速に、十分な規模で、かつファンダメンタルズを反映した価格で売買できるかどうかを表わす概念を意味します。PIMCOでは、プライベート・クレジット市場における流動性向上に向けた取り組みを、歓迎すべき動きであると考えています。しかしながら、真の価格発見機能の欠如といった、市場に内在する構造的な制約が解消されなければ、流動性は本質的に改善されることなく、概念のみが先行する結果となるでしょう。
プライベート・クレジットのポートフォリオにおいて、日次の時価評価をめぐる議論は、会計上の狭い問題から、更新が遅れやすく、ばらつきの大きい市場評価をどのように改善するかという論点に、変わりつつあります。この変化の背景には、2つの関連する動きが見られます。
一点目として、「BDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー)」が保有するローンの評価価格の格差は、ここ数四半期において急速に拡大しています。2025年12月31日時点では、同一銘柄の評価価格の間に、平均5ポイントの乖離が観察されています。(図表1)。このような乖離と、同一資産に対するアームズレングス原則に基づく公正価格の決定という概念との整合性を見出すことは、容易ではありません。
米国財務会計基準審議会(FASB)の会計基準では、レベル3分類の資産に関して、運用会社が前提条件、割引率、比較対象を決定する際に裁量の余地が与えられるため、ある程度の価格格差が生じることは避けられません。しかしながら、ここ最近の格差の拡大状況を見る限り、観察可能な取引がないことは、この市場の健全な特徴とはもはや言えなくなっています。
報告ベースの純資産価額(NAV)が、市場で取引可能な価格水準というよりも、運用会社の見解を反映していると考えられるケースも見受けられます。参考情報として、PIMCOの推計によると、2社以上のBDCが保有するローンのうち、価格格差が2ポイント未満の銘柄が全体の83%を占める一方で、残りの17%(同格差が2ポイント以上)では、格差が大きい銘柄の割合が顕著に高くなっています(図表2)。
時価評価の頻度を高めることで精度が向上するとは限らない
「日次の時価評価」は、こうした問題に対する完全な解決策ではないばかりか、問題を悪化させるおそれすらあります。「日次の時価評価」と「価格発見機能」は本質的に異なります。期待されるのは、透明性のわずかな向上や、極端に外れた評価に対する風評面での抑止効果程度のものであり、それ自体はプライベート・クレジット市場の実効的な構造改革には結び付きません。
どのような運用会社であっても、モデルに割引率や比較対象銘柄のスプレッド、債務者レベルの信用力指標を入力することで、日次で価格推計値を算出することは可能です。しかし、それでは、BDCの四半期ごとの評価価格に大きな格差をもたらす、レベル3分類資産の評価手法を、より頻繁に適用しているにすぎません。
同一のローンの評価価格が5ポイントや10ポイントも異なりうる理由は、運用会社が時価評価に際して共通の入力値を用いていないことに加えて、より重要な点として、提示した価格での取引を義務付けられていないことにあります。仮に3社のBDCが、異なるモデル入力値を四半期ごとに適用しているのであれば、日次評価の場合でも同じことになるでしょう。その結果、価格の乖離がより高い頻度で発生することになり、ノイズが増えることはあっても減ることはありません。このように、本質的な問題は頻度ではなく、評価手法と観察可能性にあります。
プライベート・クレジット市場において真の価格発見が依然として困難である要因
プライベート・クレジット市場における時価評価のばらつきや更新の遅れといった課題への対応は、2つの方向性に大別されます。1つ目は、第三者による検証の強化、独立評価機関の設置、評価手法の標準化、ガバナンスの強化といった、漸進的で比較的早期に実現可能なアプローチであり、運用会社間での資産評価方法の均質化に資するものです。2つ目は、効率的な流通市場での実際の取引に基づく価格発見を志向する、より変革的なアプローチです。
両者の違いは重要です。第三者による検証によって、一貫性が改善されることはあっても、評価価格は依然として、本質的には市場取引ではなくモデルに基づくものであり、根本的な問題が完全に解決されるわけではありません。真の価格発見には、観察可能な取引と継続的な双方向の売買フローが必要になります。
しかしながら、その目的を達成するためのハードルは、一般に想定される水準を大きく上回り、多くの市場参加者にとって保有資産の流動性を促進する経済的インセンティブが乏しい、という事実を脇に置いたとしても、いくつかの構造的な制約を克服する必要があります。
- 取引およびデータの標準化:プライベート・クレジット市場には、取引の標準的な識別コード、共通の契約書、統一基準に基づく財務報告など、パブリック市場において流動性を支える共通の言語がありません。標準化が進んでいないため、異なる資産の比較には制約が存在し、市場参加者が大規模な取引を実行することが難しい状況にあります。また、ベンチマーク化や相対価値の分析に必要な確固たる基盤がないために、流通市場取引は断続的かつ個別性の高いものとなるリスクが残存し、真の市場取引というよりもバランスシート管理の手法に近い側面を有します。
- 決済・事務処理のインフラ:電子取引プラットフォームや(米金融業規制機構が運営する)TRACE型の取引報告システムといった領域に、議論が傾斜しやすい一方で、当面の制約課題は「決済」という、はるかに基礎的な分野に存在します。現状の取引決済は、迅速性に欠け、手作業が中心で、事務負荷の高いプロセスであり、決済の迅速性や予測可能性、スケーラビリティが向上しない限り、取引量は本質的に制約されたままになると予想されます。別の言い方をすると、取引の回転率は、価格の透明性よりも、取引実行後のプロセスの円滑性に依存するという状況です。
- 譲渡制限:プライベート・クレジットの取引契約では、譲渡の要件として債務者の同意を必要とする規定が含まれるケースが少なくありません。パブリック市場には、これに相当するものが実質的に存在せず、根本的な摩擦を生じさせる要因となります。実務的にも、「取引実行の時間軸」と「譲渡の確実性」という、機関投資家による定期的な取引の活性化を目指す市場には欠かせない、2つの条件について不確実性が生じています。
- 情報の非対称性と利益相反:流通市場でプライベート・クレジットへの投資を試みる際に直面する情報障壁は、取引契約書の枠組みを大きく超える範囲に及びます。債務者レベルのデータへのアクセスは、秘密保持契約(NDA)によって制約されることが多く、また、情報開示の枠組みは統一的なものではなく、継続性にも欠けています。また、売買気配値が時折提示されるなど、一定程度の価格の透明性があったとしても、その情報源はオリジネーターの関連会社や運用会社自体であることが珍しくありません。その場合、気配価格を提示する主体が、評価価格の水準から最大の経済的利益を享受する当事者でもありうるという、構造的な利益の相反関係が生まれます。流通市場が信頼性を保ちながら機能するためには、単に価格が提供されるだけでは十分でなく、透明性、独立性、客観性が担保される必要があります。そうでなければ、市場参加者にとって、市場で実際に取引可能な価格と、価格提供者の経済的利益に合致する価格を、識別することが難しくなります。こうした現状は、パブリック・クレジットの流動性を支える構図とは対照的であり、パブリック市場では、情報を独立性を保ちつつ広範に普及させることによって、価格形成と取引コストに対する信頼性が裏付けられています。
- 双方向の流通市場取引を構造的に支える主体の不足。結局のところ、持続可能な流動性は、安定的な双方向の売買フローによって担保されることになります。幅広い投資家向けに組成されるシンジケートローン(BSL)市場の発展は、示唆に富んでいます。CLO(ローン担保証券)とETF(上場投資信託)が実需に基づく持続的な買い主体となることで、同市場の流動性は著しく向上しました。プライベート・クレジット市場には、これに類する大規模な買い需要が存在していません。ミドルマーケットCLO市場は成長を遂げているものの、そのエコシステムは依然として歴史が浅く、流通市場取引の安定的な基盤となるほどには確立されていません。そうした主体が不在であれば、構造的に安定した市場の確立には至らず、取引は引き続きオポチュニスティックなものにとどまる可能性が高いでしょう。
真の流動性の欠如を補う非流動性プレミアム
プライベート市場において価格形成の正確性の向上を図るのであれば、透明性、客観性、市場取引の不足、価格発見機能などの根本的な課題への対応が必要になるでしょう。PIMCOでは、これらの課題が持続する見通しを踏まえて、プライベート市場とパブリック市場の間で、流動性が大幅に収斂する可能性は低いと考えています。プライベート市場の投資家は、このような方向性を念頭に、流動性の低さや信用の質の違いに対する代償を含めて、適切なプレミアムを確保することに引き続き注力するべきでしょう。