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クレジット市場を視る

AI向け設備投資をマートン・モデルで読み解く

AI関連設備投資の拡大を受け、株式とクレジットの投資環境の差は広がりつつあります。
 What Would The Merton Model Say About AI Capital Spending?
AI向け設備投資をマートン・モデルで読み解く
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図表 1: 株式市場では4~6月期に入ってテクノロジー・セクターに対するセンチメントが顕著に改善しているが・・・

出所:ブルームバーグおよびPIMCO。2026年5月14日現在。「米国株式市場におけるハイパースケーラー関連株のトータルリターン(算術平均)」と「S&P500株価指数のトータルリターン」の差を表しています。
その一方で、クレジット市場ではより慎重な姿勢が見られます。ここ数週間、投資適格債の市場では、負債調達を前提とする数年スパンの設備投資サイクルの意味合いについて、投資家の理解が進む中で、ハイパースケーラーがアンダーパフォームしています(図表2)。また、AIがもたらすディスラプション(破壊的影響)のリスクが引き続き意識されるレバレッジド・ローン市場では、ソフトウェア企業向けローンに対する買い意欲が依然として低迷しています(詳細は後述)。

図表 2: ・・・クレジット投資家はより慎重な姿勢を示している

出所:ブルームバーグおよびPIMCO。2026年5月14日現在。評価方法:ハイパースケーラーが発行する残存期間が最も長い社債のオプション調整後スプレッド(OAS)の平均を計算し、ブルームバーグ米ドル建て投資適格社債インデックス(ハイパースケーラーを除く)を構成する長期債のOASの平均で除することによって評価しています。

このような株式市場とクレジット市場における対照的な値動きを解釈する上で、マートン・モデルの枠組みは有効と考えられます。負債を原資とするAIインフラ向け投資の成果は不透明であり、結果は大きく揺れ動く可能性があります。そのような状況では、株式のコール・オプションの価値が上昇する一方で、債券保有者が暗黙の売り手となるプット・オプションのリスクは高まる傾向があります。マートンの概念に置き換えると、資産価値の増加に合わせてプット・オプションの行使価格も上昇する、ということになります。

株主の観点では、アップサイドがある以上、そのリスクを取る合理性があります。債券保有者の観点では、ダウンサイド・リスクが現実的なものであるにもかかわらず、アップサイドは他者に帰属するという構造です。このような株主と債券保有者の利害の乖離は、古典的な資産代替問題の一例であり、クレジット投資家は価格に織り込む動きを強めています。企業が財務レバレッジを再び引き上げる動きに鈍化の兆しが見られるまでは、資本構成上の相反関係は続く公算が大きいと考えられます。

図表 3:ソフトウェア企業がレバレッジド・ローン・インデックスのパフォーマンスを下押し

出所: ブルームバーグ、PitchBookおよびPIMCO。2026年5月14日現在。モーニングスターLSTA米国ソフトウェア・ローン・トータルリターン米ドル建てインデックス、モーニングスターLSTA米国レバレッジド・ローン・トータルリターン米ドル建てインデックス、S&P北米拡大テクノロジー・ソフトウェア・インデックスのデータを用いています。

ソフトウェア・セクターの中でも、プライベート・エクイティ(PE)のスポンサーが付く銘柄と付かない銘柄の間で、明確な乖離が確認されています。新型コロナウイルスの感染拡大期など過去の下落局面では、PEファンドによる所有/スポンサーは支援材料と見なされていましたが、足元でその状況に変化が見られます。PEの投資先企業を借り手とするローンは、スポンサーが付かないローンを大幅にアンダーパフォームしています。インデックス・レベルで見ると、こうしたパフォーマンス格差の要因は、PEファンドによるスポンサーの有無に限らず、信用力やセクター構成の違いによるとの見方も当然ありうるでしょう。こうした反論に対応するため、より詳細な分析を行い、その結果をより説得力のある2つの手法で示すこととしました。

1つ目の手法として、S&P UBSレバレッジド・ローン・インデックスを構成するB格のソフトウェア企業向けローンを対象に、PEスポンサー付き銘柄のグループと非PEスポンサー付き銘柄のグループに分けることで、信用力とセクターの違いを調整しつつ、同条件の比較を行いました。図表4は、このように相違点を厳格に調整したベースでも、PEファンドによる所有がパフォーマンスの足かせになっていることを示しています。

図表 4:B格のソフトウェア企業向けローンにおいても、PEスポンサー付き銘柄がアンダーパフォームする傾向が確認される

出所: PitchBookおよびPIMCO。2026年5月14日現在。S&P UBSレバレッジド・ローン・インデックスのデータを用いています。
2つ目の手法として、回帰分析に基づく枠組みを活用しました。この手法は、セクターと格付けの構成が同一条件となるよう調整した、同一インデックス内の2つの仮想グループ(PEスポンサー付きローンおよび非PEスポンサー付きローン)を比較するものです(図表5)。この手法においても、PEスポンサー付き銘柄のアンダーパフォーマンスは単に銘柄構成の違いといった要因ではなく、より本質的な変化を反映していることが示されました。

図表 5:回帰分析に基づくアプローチでは、過去2年間でPEスポンサー付きローンと非PEスポンサー付きローンのスプレッド格差が大幅に縮小

出所: PitchBookおよびPIMCO。2026年5月14日現在。S&P UBSレバレッジド・ローン・インデックスのデータを用いています。PEスポンサー付きローンと比較対象となる非PEスポンサー付きローンのスプレッド(OAS)格差の推移を表しています(格付け・セクター要因を調整したベース)。灰色のバンドは、推計値を中心とした95%信頼区間を表しています。
大局的な意味としては、スポンサーであるPEファンドが投資先企業に対して、流動性と資金調達のバックストップをどの程度提供できるのか、また実際にどの程度提供すると見込まれるのかという点について、市場で大幅な再評価が行われたと考えられます。

図表 6:年初来CLO(AAA)はレバレッジド・ローンとのスプレッド感応度(ベータ)が示唆するより好調に推移

出所: ブルームバーグ、PitchBookおよびPIMCO。2026年5月14日現在。Palmer Square AAA CLOインデックスおよびモーニングスターLSTA米国レバレッジド・ローン・トータルリターン米ドル建てインデックスのデータを用いています。

インデックス・レベルで影響が抑制されていることに加えて、CLO(AAA)のアウトパフォーマンスを支える大きな要因の1つとして、シニア・トランシェに対する支払いが劣後トランシェよりも契約上優先される、構造劣後の仕組みが挙げられます。CLOのポートフォリオにソフトウェア関連のエクスポージャーが含まれる場合でも、AAA格の水準では下位トランシェによるクッションが非常に大きく、損失が波及するためのハードルは極めて高い状況にあります。AAAトランシェの劣後比率は「ディープ・アウト・オブ・ザ・マネー」の水準であり、また、CLOのポートフォリオは一般に数百の銘柄、数十のセクターに分散されています。

このため、CLO(AAA)のスプレッドが再評価によって大きく拡大するためには、ストレスが単一のセクターを超えて広範に波及し、歴史的な水準を大幅に上回るデフォルト損失を生じさせるシステミックなクレジットイベントの発生が前提となります。とりわけ米国において底堅い経済成長が持続する中、そのようなシナリオは引き続き基本シナリオから大きく外れた状況にあります。

本稿はマイケル・パンペルとガブリエル・カゾビエイユと共同執筆しました。

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