主な結論
- 現在のAIブームの中で、実物インフラに対する膨大な需要が生まれています。AIの成長を支えるため、データセンター、発電設備、チップの開発が必要になり、持続的な投資機会に結び付いています。
- 最大の投資機会は債券とローンの分野に数多く見られます。業界で確固たる地位を築いた大手テクノロジー企業が、インフラ向け支出を目的とする借り入れを拡大する流れの中で、債券市場では投資機会が浮上しています。
- 実物資産を裏付けとする、洗練されたストラクチャーの案件にフォーカスすることが肝要です。必要不可欠なインフラに担保付きの投資を行うことで、テクノロジーが進化を続ける中でも、リスクを抑えつつ安定的なリターンを追求することが可能になります。
テクノロジーと事業環境が変わり続ける中で、どのような形で長期プロジェクトに資金をコミットするかが、重要な問題となります。PIMCOの見解では、AIの勝ち組を見極めることよりも、AIのエコシステムにおいて最上位に位置する「アプリケーション(応用領域)」の階層の1つ下に位置する、「インフラ」の階層に重点を置くことが鍵となると考えられます。その際、強制執行可能な担保資産、主要契約に対する支配権、計画が実現しない場合でも返済の確実性を担保する保護措置を確保することが、ポイントになります。
また、プロジェクトの開発において、スチュワードシップ(受託者責任)の視点も欠かせません。現地の公益企業や共同体と連携することによって、データセンター投資の基盤は盤石になります。開発を円滑に進めることで、必要な発電・送電のインフラが確保され、固定費は分散されます。また、地域経済の活性化を促進するとともに、地域社会が開発の恩恵を確実に共有する結果、料金負担の悪化を防ぐことにもつながります。PIMCOでは、既存の制約下にあるシステムに単に電力需要を上乗せするのではなく、データセンターの建設が地域全体のインフラ需要に貢献するようなプロジェクトを選好しています。
さらに、投資先のクオリティも重要な判断材料になります。世界最大手のハイパースケーラーは、クラウド・サービスを提供する巨大なテクノロジー企業であり、設備投資は増加傾向にあるものの、一般に多様な収益源、堅固なバランスシート、事業戦略の長期的な柔軟性を備えています。これに対して、単一のAIアプリケーションのみに依存し、いまだ黒字転換を果たしていないテナント企業(プラットフォーム利用企業)のリスクは、性質が大きく異なります。
洗練されたストラクチャーの条件
PIMCOでは、2030年までに見込まれる5兆ドル規模の設備投資のうち、40%以上についてデット・ファイナンスが必要になる可能性があると推計しています(図表2)。新たな資金調達の波が押し寄せる中で、選別的な姿勢を保つことと、ストラクチャーを慎重に設計することが特に重要になります(詳細は、2026年5月22日付経済・市場コメント「AIクレジットの拡大:ミクロとマクロの視点からのリスク評価」参照)。
具体的に考えると、担保付きのファイナンス案件に参加する投資家には、一般的な債務履行に関する誓約に加えて、実物資産やリース料収入、キャッシュフローを生む契約などに対する直接的な請求権が付与されることになります。GPUファイナンスであれば、対象はチップ自体や収入回収用の口座に対する担保権にまで及びます。また、データセンターのリース契約や電力購入契約などの主要な契約についても、担保パッケージに組み入れるべきと考えられます。
さらに、キャッシュフローに対するコントロールも、同様に重要な役割を担います。洗練されたストラクチャーでは、収入が不足した場合やデット・カバレッジ・レシオ(元利金返済カバー率)が所定の水準を下回った場合に、債権者保護の目的でキャッシュフローを準備金口座に振り向ける仕組みが備わっています。また、不足の状態が続く場合には、債務の返済が繰り上げられることになります。
一方、案件の条件決定に際しては、その時点のリスクだけでなく、長期債の残高が急速に積み上がるセクターの供給見通しを織り込んだクレジットスプレッドを設定すべきでしょう。また、PIMCOの見解として、投資家は、個別性の高いプライベート・クレジット型の保護条項を組み込んだとしても、取引流動性が必ずしも損なわれるわけではない点を踏まえ、流動性の最大化を追求すべきと考えます。規則144Aに基づく私募証券のような仕組みであれば、発行体サイドの柔軟性を確保しつつ、説明責任も担保しながら、適格機関投資家(QIB)に分類される大手の投資家は、流動性が高く厚みのある市場において取引を行うことが可能となります(詳細は、2026年3月付の経済・市場コメント「パブリック市場とプライベート市場でスプレッド水準が接近しても、流動性の差は解消されない」を参照)。
注意すべき分野
過熱気味のセクターにおいては、投資判断に際して、何を避けるべきかを見極めることが重要なポイントになります。
契約に基づくキャッシュフローの裏付けを欠く投機的なインフラ整備。債務の返済が、署名済みの強制執行可能な契約ではなく、将来の需要に依存するストラクチャーは、適切な対価を伴わないリスクを招くおそれがあります。投資家は信用力の高い取引相手との間で、確固たる契約に裏付けられた案件を追求すべきと考えられます。PIMCOでは、明確な救済措置を備え、債権者が関連するキャッシュフローをコントロールできる確固とした契約に基づいて、債務が返済されるストラクチャーを選好しています。
取引年限と返済リスク。ハイパースケーラーが残存5年の負債を原資に期間20年のリース契約を締結する構図は、市場環境の変化によって借り換えが難しくなった場合に、リスクを生じさせます。このセクターでは5年債が大量に発行されたため、2030年頃に数千億ドル規模の借り換えが集中する可能性があります。借り換えに依存せず、リース料収入を原資として期中に債務を返済するストラクチャーは、安定性が高いと考えられます。また、同様の考え方が残存価値にも当てはまります。データセンターやGPUの5~10年後の価値を予測することはほぼ不可能であるため、残存価値をゼロと想定し、契約に基づくキャッシュフローからの返済だけを考慮するのが、保守的なアプローチと考えられます。PIMCOでは、将来の有利な借り換え条件の想定に依存することなく、契約に基づくキャッシュフローによって元本が段階的に返済される仕組みを、重視する傾向があります。
原契約の透明性の欠如。リース契約の解除条項、建設遅延条項、不可抗力条項、停電時の救済措置、災害事由のメカニズムはいずれも、契約に基づくキャッシュフローを大幅に減少させたり、債務返済に必要な水準以下に支払いを減少させたりする可能性がある規定です。原契約を精査できない場合、投資家は完全に把握することが難しいリスクに直面することになります。PIMCOの場合、実際の契約のメカニズムを精査できないケースでは、リスクが計測不能であると判断し、投資判断を見送ることとしています。
規律を保つことで「FOMO(取り残されることに対する恐怖心)」を乗り越える
AIインフラの拡大は複数年単位の投資サイクルであり、多様な資産タイプ、地域、資本構成において取引機会を生み出します。規律の高い投資家にとっては、予想される資金ニーズの規模が有利に働きます。単一の案件に限定されず、選択肢の幅が広がるからです。
PIMCOでは、AIのエコシステムにおいて最終的に勝ち残る「アプリケーション」を予想するよりも、「インフラ」の階層に重点を置くアプローチが最も持続性が高いと考えています。急激な変化を特徴とするセクターにおいて、デットの投資家がサイクル転換時に資金を守る規律を損なわず投資する方法として、実物資産による裏付け、堅固な担保資産、キャッシュフローの明確なコントロール権を確保した上で、テクノロジーそのものより1つ下の階層に焦点を当てるアプローチが考えられます。