要約
- 債券のベンチマークは実用的なものですが、それ自体は投資対象になりません。 実質的に、ポートフォリオにおいて債券インデックスを複製することは不可能であり、債券のパッシブ運用とアクティブ運用のパフォーマンスを評価する上で、投資家はより実態に即した比較方法を検討すべきと考えます。
- 債券においては、アクティブ運用が有効に機能してきた傾向があります。 理論上の債券インデックスではなく、実際に投資可能なパッシブ型のポートフォリオを比較対象とした場合、多くのアクティブ運用型の債券戦略は、特に長期において、パッシブ運用を上回るパフォーマンスを示してきました。
- プライベート・クレジットには真のベンチマークがありません。 標準的な評価基準が存在しないため、ダイレクト・レンディングのパフォーマンスは、おのずと優れているように見えることがあります。しかし代替的なパフォーマンスの比較指標を用いると、近年では隣接するパブリック・クレジット市場に対する超過リターンが低下していることが示唆されています。
米国債利回りは5月下旬に低下局面を迎えたものの、直近の最も低い水準を大幅に上回り、過去1年以上で最も高い水準近辺で推移しています。これに対してリスク資産の地合いは堅調に推移しており、米国株式は繰り返し過去最高値を更新し、クレジットスプレッド(国債対比)は引き続きタイトな水準にあります。
基本的な構図に変化はありません。リスク資産の市場では、イラン紛争解決の見通しが引き続き織り込まれる一方で、これまでのように経済成長が持ちこたえ、ファンダメンタルズの底堅さが持続する限り、インフレの一定程度の再加速を問題視しない姿勢が維持される見通しです。これまでのところ、こうした環境は維持されています。一方、債券の利回りには、幅広い金融政策のシナリオが引き続き織り込まれる公算が大きいと考えられます。また、戦争の影響を反映して、比較的高い水準のリスクプレミアムが上乗せされていますが、緊張緩和が一段と進めば縮小する余地は存在します。
これは、リスク資産(特に株式)と債券の間に存在する本質的な違いの一例にすぎません。
パッシブおよびアクティブ債券運用の評価
債券におけるアクティブ運用とパッシブ運用を巡る議論は、いまだ結論に至っていません。その背景にあるのは、実証的な問題ではなく、構造的な要因です。両者を比較する際は、3つの明確な課題が存在します。第1に、パフォーマンスは条件を揃えて測定する必要があります。その際、統合・清算されたファンドを暗黙に成績不振として扱ったり完全に除外したりするのではなく、評価対象に含めることで生存者バイアスの補正を行う必要があります。第2に、債券においては、適切なベンチマークの選択が本質的により複雑になります。第3に、最も重要な点として、実際に投資することができない理論上のベンチマークではなく、投資可能なパッシブ戦略を比較対象とする必要があります。
この最後の点が、多くの比較において問題となります。債券インデックスは、広範な投資対象ユニバースの指標としては実用的ですが、実際に保有可能なポートフォリオではありません。総合債券インデックスや社債インデックスに加え、特に証券化商品やバンクローン、新興国債券のインデックスは、取引可能で観測可能なポートフォリオではなく、会計上の概念に近い性格を有します。これらのインデックスは、月末の仲値でのリバランス、コストを伴わない新規発行銘柄の組み入れ、格付け変更のリアルタイムでの反映、さらに流動性と透明性を備えた市場ではなく「相対交渉」で取引される数千銘柄の完全な組み入れが前提とされています。このようなユニバースをポートフォリオにおいて再現することは、実質的に不可能です。その結果、こうした机上のインデックスを基準に債券のアクティブ運用のパフォーマンスを評価すると、投資可能銘柄に付随するコストと運用スキルが混同されてしまいます。
インデックス上場投資信託(ETF)は、コストを可視化する役割を果たします。パッシブ運用の仕組みでは銘柄選択の裁量はないものの、手数料、取引コスト、サンプリングの不一致などの影響により、ベンチマークを恒常的に下回る傾向が見られます。図表1は、ハイイールド債のパッシブETF上位5ファンド(運用資産残高ベース)とベンチマーク・インデックスについて、過去10年間のトータルリターン(年平均)の差をプロットすることで、この点を示したものです。ここでは、ETFがベンチマークを下回る傾向が明確であり、アクティブ運用について同じベンチマーク対比で評価すると、パッシブ運用は本質的にそれ自体を下回っていることが分かります。
したがって、アクティブ運用のリターンを評価する際には、理論上のインデックスのリターンと比較するのではなく、手数料を考慮し、理想的にはリスク水準を一致させたパッシブ運用で実際に得られたと考えられるリターンと比較することが重要になります。このような評価基準に基づくと、多くの場合、債券市場ではアクティブ運用がパッシブ運用を上回る傾向が明確に裏付けられます。図表2は、ベンチマークを上回ったアクティブ運用型の債券ファンドおよびETFの割合と、パッシブ運用型のファンドの中央値リターンを上回った割合を比較することで、この点を示しています。
図表2では、手数料控除ベースで、2025年末時点から遡る5年間を対象に比較しています(10年間の場合も同様の結果が得られます)。また、統合・清算されたファンドも分析対象に加えているため、潜在的な生存者バイアスは補正されています。この図表から、さまざまな運用スタイルにおいて、パッシブ運用ファンドの中央値リターンを上回るアクティブ運用ファンドの割合が、非常に高いことが読み取れます。また、アウトパフォームしたファンドの割合は、評価期間が長いほど高くなります。図表2で示したエビデンスは、多くの学術文献の内容とも整合的です注1。
現在、クレジットスプレッドが歴史的にタイトな水準にある中では、選別を伴わないエクスポージャーから得られるリターンは限定的であり、リスク・リターンの非対称性も魅力的な状況にはありません。その一方で、ばらつきは拡大しています。バリュエーションが割高な局面では、インデックスによりパッシブ戦略の投資家が取らざるを得ないポジションを回避することが、ダウンサイド・リスクを管理する上で何より重要になります。また、ばらつきが大きい環境では、クレジット分析の対象をパブリックおよびプライベートの両市場に広げることが、アップサイドを狙う上で有効になる可能性があります。これはまさに、パッシブ戦略に基づくポジションの複製コストが最も高まり、アクティブ運用の実効性が顕著に高まりやすい環境といえます。
ベンチマークが存在しないことに問題がないわけではない
プライベート・クレジット市場では、非上場のBDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー)に対する解約請求の圧力に多くの注目が集中していますが、年初来5カ月時点のドローダウン型ファンドの資金調達は、前向きに捉えても、ばらつきがあるという評価にとどまります。ダイレクト・レンディング・ファンドの新規設定数は年率ベースでも依然として非常に少なく、ファイナル・クロージング(最終的な募集締切)に至ったファンドの数も顕著に減少しています。さらに、ローンチ(募集開始)からクロージング(募集締切)までの所要期間も、過去最長の記録を更新し続けています。公表データは今後改訂される可能性がありますが、方向性は明確です。ダイレクト・レンディングに対する機関投資家の需要は冷え込み、その結果、借り手にとっての資金調達環境は限界的に逼迫しつつあります(図表3参照)。
ダイレクト・レンディングのポートフォリオは、ファンダメンタルズ関連の逆風に直面しています。また、比較対象のパブリック市場に対する超過プレミアムの縮小も、需要の下押し要因となっています。ここで、その超過プレミアムをどのように測定するかという、より根本的な論点が浮かび上がります。この点に関連して、プライベート市場が抱える問題はパブリック市場とは正反対の性質を有し、ベンチマークが存在しないために、コストをかけずにアウトパフォームできるという心地よい錯覚が生じています。
もっとも、評価基準が存在しないからといって、ダイレクト・レンディングが実際に投資可能な比較対象を一貫して上回るとは限りません。より適切な比較対象として、幅広い投資家向けに組成されるシンジケートローン(BSL)に適度なレバレッジをかけたエクスポージャー(「レバレッジ付きBSL指数」)が考えられます。この視点で見ると、プライベート・クレジットはベンチマークから切り離された存在とは言えません。
図表4は、パブリック市場等価(PME)の枠組みを用いて、レバレッジ付きBSL指数に対するダイレクト・レンディング・ファンドの超過リターン(手数料控除後)を示しています。技術的な詳細は割愛しますが、PMEの枠組みは、ファンドのキャッシュフローの正味現在価値(NPV)がゼロになるように、レバレッジ付きBSL指数に上乗せする必要のある超過リターンを推定するものです。直感的には、投資家が同一のキャッシュフローをレバレッジ付きBSL指数に投資した場合に得られたであろうリターンと比較して、ファンドがどれだけの追加リターンを生み出したかを測定するものです。このような比較をすることによって、流動性を犠牲にすることの対価に加え、運用マネージャーの選定に伴う追加的付加価値を捉えることが可能になります。
図表4から得られる示唆は明確です。パンデミック前に組成されたビンテージは、与信判断の規律の高さや運用スキルが発揮されやすい環境を背景に、パブリック市場等価と比較して堅調な追加的対価をもたらしてきました。これに対し、近年のビンテージでは、超過リターンが着実に低下しています。
別の言い方をすると、近年組成されたダイレクト・レンディング・ファンドは、パッシブ戦略と同様に、運用スキルよりもクレジット環境全般にリターンが左右される、ベータ型商品の性格を強めているように見受けられます。
本稿の作成には、マイケル・パンペル、ガブリエル・カゾビエイユ、ヘレン・グオ、ジャーマン・ラミレスが協力しました。
1Jaewon Choi、K. J. Martijn Cremers、Timothy B. Rileyが執筆した「Active versus Passive Management of Bonds (and why passive bond management is an oxymoron).」SSRN paper 3557235 (2026年4月改訂)をご参照ください。K. J. Martijn Cremers、Jon A. Fulkerson、Timothy B. Rileyが執筆した「Benchmark Discrepancies and Mutual Fund Performance Evaluation.」Journal of Financial and Quantitative Analysis (2022年)も併せてご参照ください。本文に戻る