8月半ば、30年物米国債利回りが5.3%前後まで上昇し、約20年ぶりの高水準をつけました。欧州、英国、日本の国債利回りも同様の高水準まで上昇しています。
イールドカーブの長期ゾーンの動きをけん引しているのは何でしょうか。政府債務残高の増加、AI関連の社債発行の急増に加え、エネルギー価格に起因する根強いインフレ懸念と、それが中央銀行の政策運営に及ぼす影響が、いずれも一因となっています。
AIインフラの構築に関連する社債発行が相次ぐなか、PIMCOのマルチアセット・クレジット・ストラテジストであるロトフィ・カルイは、AI関連の資金調達が債券市場に与える影響について分析しています。AIインフラの構築を資金使途とする社債は、長期年限を中心に発行規模が拡大しており、利回りを押し上げる主因ではないとみられるものの、投資資金をめぐって国債と競合するほどの規模に達しています。足元では、AIの影響が市場にどの程度織り込まれているかが、重要な論点となっています。
ここ最近のボラティリティの上昇は主として実質利回りの動きによるものです。名目利回りが上昇を続ける一方、市場が織り込む期待インフレ率の目安となるブレークイーブン・インフレ率は、比較的安定して推移しています。このことは、投資家が以前より大幅に高いインフレ・プレミアムを求めているわけではないことを示唆しています。
政府債務の動向と債券自警団
国債利回りの水準調整は世界的に進んでおり、政府債務残高の増加が引き続き市場の懸念の中心となっています。こうした水準調整が進むなか、30年物ドイツ国債利回りは2011年以降の最高水準に、30年物フランス国債利回りは世界金融危機以降の最高水準に達しています。日本でも、10年物国債利回りが30年ぶりの高水準に達しています。
先進国経済に共通する課題は、財政赤字の拡大です。米財務省によると、連邦政府の総債務残高は8月18日時点で40兆ドルを超え、過去10年間で2倍以上に拡大しました。また米財務省は19日、長期の資金調達コスト上昇を背景に、既発の10年債から30年債を対象とする買い戻し予定額を少なくとも2倍に引き上げる方針を明らかにしました。
PIMCOは直近の長期経済展望「断裂する世界とレジリエンス」で、市場の関心が債務の持続可能性に繰り返し向かうことで、突発的な財政危機ではなく、折に触れて市場変動が高まるとの見通しを示しました。この見方は、現在も変わりません。また、2024年12月のPIMCOの視点「債券自警団の考察」でも同様の見解を示し、財政赤字の拡大を背景に、長期年限の米国債への投資には以前ほど積極的ではないと述べました。
資本フローや為替の調整が一時的な調整弁となる可能性はあるものの、長期債利回りの唯一の持続的なアンカーは、財政赤字の削減だとPIMCOでは考えています。米国では、財政赤字と景気情勢に応じた財政上の必要性との連動が大きく低下し、景気が好調な局面でも赤字が急速に拡大しています。先進国全体を見ても、緊縮財政に取り組む意欲はほとんど見られません。
タームプレミアムの上昇と今後のリスク要因
米国の投資家が示す警戒姿勢の一因は、30年債市場の構造的な特性にあります。30年債は10年債に比べて米国債市場での流動性が低く、財政の信認をめぐる市場心理の変化にも大きく反応します。
これに対して10年債は、住宅ローン金利や企業の借入コスト、より広範な資本コストの基準となるベンチマークとして、幅広く利用されています。超長期債の動向が注目を集める中でも、10年債利回りは、PIMCOがここ数年にわたり目安としてきた3.75~4.75%のレンジ内にとどまっています。
このレンジが維持されている理由として、いくつかの要因が挙げられます。その一つは、予想より弱い内容となった雇用統計や、コンセンサス予想を下回るインフレ指標など、足元の経済指標が弱含んでいることです。また、米金利市場に積み上がった大規模なショートポジションが、利回りの無秩序な上昇を抑える一因となる可能性があるほか、利回りレンジの上限付近では、米財務省による国債の買い戻しが債券相場を下支えしているとみられます。
利回りレンジの上方シフトにつながりうる主なリスクとしては、財政刺激を必要としない経済下での追加的な財政刺激策や、国債供給見通しのさらなる悪化が挙げられます。
超長期債が相対的に軟調となったことで、イールドカーブはスティープ化し、投資家が年限の長い債券の保有に求める上乗せ利回りであるタームプレミアムも上昇しています。PIMCOでは、予想外の景気悪化がない限り、現在の高いタームプレミアムが続くとみています。
投資機会の改善に至る道のりは平坦ではない
ここで注目したいのは、最近の上昇を経た後でも、長期年限の米国債やその他のソブリン債の利回りは、おおむね長期的な平均水準付近に戻っているという点です。現在の利回りが異例の高水準に見えるのは、世界金融危機後に人為的に低く抑えられていた金利と比較した場合にすぎません。
利回りが徐々に上昇していく過程は決して容易なものではありませんが、利回りの上昇は、インカム創出余力の高まりを通じて、最終的に投資家に恩恵をもたらす可能性があります。2022年には、年初の利回り水準が低すぎたため、金利が急速に上昇する中、得られるインカムでは債券価格の下落を相殺できませんでした。一方、現在は、投資開始利回りがインフレ調整後で見ても魅力的な水準にあり、足元の市場動向に伴う債券価格の下落を相殺するのに十分なインカムをもたらす可能性があるほか、債券市場を広く見ても、パフォーマンスは底堅さを維持しています。
PIMCOは50年以上にわたり、さまざまな金利サイクルに対応しながら運用してきました。その経験を通じて、謙虚な姿勢を保つこと、市場の力を尊重すること、そして長期的な視点を持ち続けることの重要性を学んできました。PIMCOでは、足元の利回り水準は歴史的に見て投資妙味を増しており、長期投資家にとって投資を始める好機になり得るとみています。こうした見方から、引き続き債券を魅力的な投資対象と位置づけており、利回りがさらに上昇する場合には、より高いインカムや保有に伴うキャリーに加え、スティープなイールドカーブ上でのロールダウンによる収益機会も期待できることから、投資の積み増しを検討します。