「解放の日(相互関税の発表日)」から1年以上が経過した後も、財政、政治、ドルを巡る懸念を背景に、海外投資家が米国資産から構造的に資金を引き揚げる兆候は、依然としてほとんど見られません。
実際、米国社債市場では、海外投資家の需要が引き続き旺盛です。米財務省の国際資本統計(TIC)が示すクロスボーダーの証券投資フローによると、5月末時点で、海外投資家による米国社債の累積純購入額は2,160億ドルに達しています(図表1参照)。年初来(1~5月)の実績としては、世界金融危機以降の過去最高だった水準を32%上回っており、2026年通年の資金流入額も、既に高水準だった過去3年間の年間実績をいずれも上回るペースで推移しています。海外投資家が米国の財政政策や政治情勢、米ドルの地位や動向についてどのような懸念を抱いているにせよ、そうした懸念が米国社債市場からの資金の引き揚げにつながっている様子は見られません。むしろ、この資産クラスに対する海外投資家の需要は一段と強まっています。
これに対し、米国債については、状況がより複雑です。図表2で示したように、海外投資家による米国債の純購入額は、年初来でプラスを維持しているものの、2021年以来の最低水準にあります。
最近の米国債の純購入額の減少は、主に公的部門による購入の大幅な落ち込みを反映したものとPIMCOではみています。公的部門には通常、中央銀行、外貨準備の運用機関、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)などが含まれます。公的部門、海外民間部門ともに純購入額は減少傾向にあるものの、1~5月の累積純購入額は、公的部門がわずか60億ドルだったのに対し、海外民間部門は1,650億ドルに達しました(図表3参照)。こうした購入減少の要因は明らかではありませんが、米国以外の国・地域で国債利回りが上昇し、国内の投資資金を巡って米国債とこれまで以上に競合するようになったことが、最も有力な説明と考えられます。
日本の投資家は日本国債の選好を強める
入手可能なデータを見る限り、投資家が米国債から、相対的に魅力のある利回りを提供する他国の国債へとシフトしている動きは、日本で最も明確に表れています。10年日本国債利回りは、過去数十年間見られなかった水準に達しており、為替ヘッジコストを考慮しても、米国債利回りに対して一貫して競争力のある水準にあります(図表4参照)。
また、日本銀行のデータを用いた図表5が示すように、日本の投資家は2026年1~5月に、米国長期債を売り越しています。日銀は純購入額の社債と国債の内訳を公表していませんが、米財務省の国際資本統計(TIC)と照らし合わせると、売り越しの大部分は国債によるものと考えるのが妥当です。
米国資産は不確実性の高い局面でも総じて魅力を維持
日本ではこのような傾向が見られる一方で、海外投資家は米国資産に対して総じて安定的な需要を示しています。これを示すもう一つの材料は、大規模な連動売りがほとんど見られないことです。2026年に入ってこれまで、10年米国債利回りの上昇、米国投資適格社債スプレッドの拡大(ブルームバーグ米国社債トータル・リターン・インデックスに基づく)、米ドル相場の下落が同時に生じたのは、取引日ベースでも、5営業日のローリング期間ベースでも、全体の約2%にすぎません。米国例外主義に対する信認が本当に失われているのであれば、こうした連動売りははるかに頻繁に起きるはずです。
ただし、2025年4月の「解放の日」に関する発表直後には、米国債利回り、クレジット・スプレッド、米ドル相場が一時的にそろってネガティブな方向に動きました。しかし、その後は資産間の従来の相関関係がおおむね回復しており、「解放の日」直後の市場の混乱は、持続的なレジームシフト(構造的変化)というよりも、一時的な市場の歪みだったことが示唆されます。
同様に重要なのは、地政学的要因などによって市場全体が不安定化する局面でも、米ドルと米国債が引き続きヘッジとして機能していることです。リスク資産に下押し圧力がかかる局面では、米国債利回りがおおむね低下するか、米ドルが下支えされる傾向があります。
もちろん、絶対的なパフォーマンスでみれば、インフレ見通しの不確実性を高めるような市場ショックが生じた場合など、米国債が必ずしも期待どおりにヘッジとして機能するとは限りません。とはいえ、こうした局面でも、米国債は他のG10諸国の国債と比較して、相対的に良好なパフォーマンスを示す傾向があります。
さらに、今年3月のイラン紛争勃発時のように、長期年限の米国債利回りが上昇し、投資適格社債スプレッドが同時に拡大した局面でも、米ドルは堅調に推移しています。これは、世界的な緊張や不確実性が広がる中でも、投資家が引き続き米国資産を選好していたことを示唆しています。
総じて、今年の米国資産全体に対する需要は過去に比べて低い可能性があるものの、絶対的に見れば、決して低い水準ではありません。
こうした動きは、ファンダメンタルズやトレンド、相対価値など、さまざまな観点から分析することの重要性を浮き彫りにしています。PIMCOの分析では、米国資産に対する需要が世界的に維持されていることが示される一方、多くの地域で魅力的な利回りが見られることから、債券市場にグローバルな視点で取り組むことの重要性も裏付けられています。経済成長やインフレ、政策の方向性の乖離が続く中、グローバル債券への分散投資は、ポートフォリオの強靱性を高める可能性があります。
本稿はマイケル・パンペルとガブリエル・カゾビエイユが執筆しました。