米連邦準備制度理事会(FRB)は7月、政策金利を据え置きましたが、3名の参加者は利上げを支持し反対票を投じました。会合前、市場は利上げの確率を約3分の1と織り込んでいたため、今回の据え置きは、市場の織り込みに比べてハト派的でした。記者会見で、ケビン・ウォーシュFRB議長は、インフレ率が継続的に目標を上回っていることに言及し、FRBが物価安定に取り組む姿勢を強調しました。これは、ある程度の追加的な金融引き締めがなお正当化される可能性はあるものの、その時期は市場がこれまで織り込んでいたほど差し迫ってはいないことを示唆しています。会合前に公の場で発言した他の米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者とは異なり、ウォーシュ議長は、インフレの動向次第では早ければ9月にも利上げがあり得ることを示唆する発言をしませんでした。
FRBの決定と記者会見を総合すると、水曜日午後の時点でも市場は合計50ベーシスポイントの利上げを織り込んでいましたが、その時期を巡る不確実性はより大きくなっていました。ブレークイーブン・インフレ率も、長期ゾーンの名目金利とともに上昇しました。
市場の利上げ観測が後退するためには、実際のインフレ率が鈍化する必要があるとみられます。PIMCOは引き続き、年後半にはインフレが一段と鈍化すると予想しており、基本シナリオではFRBが政策金利を据え置くとみています。ただし、エネルギー価格の高止まりと中東情勢の緊張により、短期的なリスクは政策金利の上振れ方向に傾いています。
金融政策の見通しを考えるうえで重要なのは、FRBが利上げするのか、政策金利を据え置くのか、あるいはいずれ利下げに転じるのかという点だけではありません。重要なのは、ウォーシュ議長の下で、FRBの「2%台のインフレ」に対する許容度が変化しているのかどうかです。ウォーシュ議長は、インフレ率の目標が2%であることを強調する一方、インフレ率の測定方法を巡る疑問にも言及しました。また、インフレ率が目標を上回っている期間の長さを強調したにもかかわらず、政策変更を急いでいる様子はみられませんでした。
FRBが7月の利上げを見送った理由
FRB当局者の間では、今年中に追加の金融引き締めが必要となる状況が生じるかどうかについて、6月の経済見通し(SEP)で見解が分かれていましたが、PIMCOは7月の利上げの可能性を特に高いとはみていませんでした。6月以降のデータにより、FOMCには様子を見る時間的余裕が生まれました。雇用者数の伸びは鈍化し、労働参加率と失業率は振れが大きく、インフレ指標は予想外に弱い内容となりました。
最近の公の発言で、複数のFRB当局者は、インフレ率が根強く高止まりすることを利上げの条件としていました。なかでも、ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁とクリストファー・ウォラーFRB理事は、今後の利上げは、インフレが今年第1四半期と同程度に根強い状態を維持するかどうかに左右されるとの見方を示していました。ウィリアムズ総裁は、年内の残りの各月にコアインフレ率が前月比0.2%で推移すれば、FRBは政策金利を据え置くことが可能になるとまで述べていました。仮にFRBが7月に利上げしていたなら、PIMCOはそれを、ウォーシュ議長自身が推した政策であると同時に、市場にサプライズを与えることもいとわない新たな姿勢の表れだと解釈していたでしょう。
コアPCEが示唆するほどタカ派的ではないインフレの全体像
政策当局が政策を運営するうえでは、その対象を測定する必要がありますが、この点でインフレデータには複雑さが伴います。コア個人消費支出(PCE)価格指数の前年比上昇率は、5月まで約3.4%と高止まりしていました。これは、FRBが今週の会合時点で手元に有していたデータです(米商務省経済分析局(BEA)による6月分のデータは、2026年7月30日に発表される予定です)。
コアPCEは、FRBが2%目標の達成に向けた進捗を測る標準的な指標ですが、より広範なインフレ指標と比べると、次第に外れ値のようにみえてきています。コア消費者物価指数(CPI)、中央値CPI、刈込平均CPI、中央値PCE、刈込平均PCEは、いずれもおおむね2.5%~3.0%付近に集中しており、FRBの目標により近い水準にあります。
この差の大部分は、少数の項目、なかでも資産運用サービスとソフトウェアに起因しています。両項目は、堅調な株価動向やテクノロジー関連の投入価格の急上昇といったAI関連の動向から大きな影響を受けており、その結果、基調的なインフレが実態以上に高く示されている可能性があります。BEAはすでに、これらのデフレーターの算出方法を改善すると発表しており、PIMCOでは、この改善により公表されるPCEインフレ率が約0.2~0.3パーセントポイント低下する可能性があるとみています。
同時に、労働市場の状況と賃金の伸びは、インフレの広範な再加速とは整合的ではないようにみえます。総合的にみて、PIMCOは、経済見通しがFRBによる年内いっぱいの政策金利据え置きと整合的だとみていますが、リスクは利下げよりも利上げの方向に傾いています。
FRBの政策反応関数は変化しているのか
大局的にみれば、本質的な問題は、ウォーシュ議長の下で、2%台のインフレが続くことに対するFRBの許容度が変化しているかどうかです。過去数年間、FRB当局者は、2%台のインフレは、労働市場の正常化と相まって、中立金利への緩やかな回帰と整合的であるとみていたようです。これは、1990年代半ばの「オポチュニスティック・ディスインフレーション(機会を捉えたインフレ抑制)」と呼ばれるアプローチに似ています。当時のFRBは、目標を上回るインフレを容認し、次の景気後退によってインフレ率が目標まで完全に低下するのを待つ用意がありました。
ウォーシュ議長が初の議会半期証言で述べ、今回の記者会見でも繰り返した発言の一部からは、インフレ率が長期にわたりFRBの目標をやや上回り続けることについて、同議長が容認する姿勢を弱めている可能性がうかがえます。ウォーシュ議長は、FRBのインフレ目標は2%だと強調し、「インフレ率が63カ月にわたり目標を上回ってきたことは、不公平な負担となっています」と述べました。また、「米国民や企業にとって、税のように作用してきました」と述べたうえで、「われわれは、その税をなくす方針です」と続けました。さらに、「そのためには、政策運営のレジーム転換と、これまでの慣行を新たな視点から検証することが必要です。慣行のなかには、うまく機能したものもあれば、そうでないものもあります」と述べました。
FRB内の他の政策担当者も、2%台のインフレを容認する姿勢から離れつつある可能性があります。地政学的な紛争や供給ショックが続き、インフレの急上昇がより頻繁に発生する可能性があるなか、「平時」に2%台のインフレを容認すれば、いずれインフレ期待に上昇圧力がかかる可能性があります。現時点でインフレ期待は十分に抑制されていますが、FRB当局者は最近、インフレ期待を安定的に維持できるよう金融政策を運営すべきだと述べています。
金融政策戦略が変化しているのであれば、インフレ率が、2027年のコアPCEのコンセンサス予想である2.5%前後で安定しても、FRB当局者には成功とはみなされない可能性があります。むしろ、金融政策が十分に引き締め的ではないことを示唆する可能性があります。
ただし、ウォーシュ議長は、目標を上回るインフレの持続に対する具体的な政策対応を支持するところまでは踏み込みませんでした。同議長は、FRBの政策反応関数を巡る質問に詳しい回答を示さず、政策変更を急いでいる様子もみられませんでした。
市場、ボラティリティ、サプライズ
市場では利上げを予想する動きもみられましたが、FRB当局者が、追加利上げはインフレの根強さがさらに続くことを条件とするという6月のメッセージを明確に繰り返していたことから、FOMCによる政策金利の据え置きはPIMCOの見通しと一致するものでした。
それでも、ウォーシュ議長がフォワードガイダンスを放棄する決定を下したことで、短期ゾーンの金利ボラティリティは高止まりする可能性が高く、今後、いずれの方向にもより大きなサプライズが生じる可能性が高まります。実際、水曜日午後には、FRBが2%目標をどのように定義しているのか、また、インフレ率の高止まりがウォーシュ議長の下で金融政策戦略を変化させるのか、あるいはさせないのかを巡る不確実性を背景に、長期ゾーンのブレークイーブン・インフレ率が上昇し、米国債イールドカーブは急激にスティープ化しました。これは、FRB議長からの情報発信の透明性が低いなかで、市場がどのように反応し得るかを示す一例です。